「ああ、良かったマリア」 帰ってきたマリアを、ティエリアは抱きしめる。 「にゃおん」 「ティアも」 帰ってきたマリアは、一人ではなかった。 「そちらの人は?」 イフリールが身に宿した魂は、誰でもないニール・ディランディのもの。その肉体を人間として構築させる。 「ニー・・・・ル?」 ティエリアの石榴の瞳から涙があふれる。 「これは、幻ですか?」 「ティエリア、少し我慢してくれな」 ニールから姿がイフリールに変わる。 「なんなんだこれは・・・」 ティエリアが、数歩後退する。マリアを抱きしめたまま。 イフリールは、背中の燃える翼でティエリアを包み込む。 ティエリアの中にある、ニールは死んでしまったという記憶を忘れさせるためだ。ニールは生きて、そしてずっと今まで生活をしていた。ニールとティエリアの間にはマリアという子供が産まれた。 同じように、マリアと接触したことのある人間の記憶も全て改竄し、父親は生きているのだと偽の記憶を埋め込ませた。 「イフリール、我侭をいってごめんなさい。マザーに、せめてもの幸福をあげたい」 マリアは泣いていた。 気を失ったティエリアを抱きしめる姿は、ニールに変わっていた。 イフリールは眠っている。 「ファザー、はじめまして。あなたの娘、マリアよ」 「ああ。ずっと、天国から見ていたよ。天使なのに、自分から身を投げ打って俺の子供になってくれてありがとう」 「えへへ、ファザーに褒められちゃった」 マリアの中の、天使としての人格はほとんど眠っている。まだ7歳の少女の人格のマリアである。 「にゃおん」 「ティアも嬉しがってるよ!」 ニールは、マリアを抱き上げた。 マリアはニールにしがみつく。ティエリアはベッドで眠っている。 「親子三人と、猫のティア、四人家族だな!」 「そうだね、ファザー」 零れんばかりの笑みを浮かべるマリア。 完全に、もう天使としての記憶は消えていた。 同じように、ニールの中からも、自分は死んでいた存在だという魂の記憶も消し去られていた。 「マリア、遊園地に行きたい」 「明日な。ティエリアと一緒に行こうか」 イフリールの力で、ティエリアの末期ガンの状態は改善され、完全な健康体になっていた。 「マザーとファザーと一緒に、遊園地!ティアも一緒に連れて行っていい?」 「ああ、勿論だ」 「ファザー、お腹すいたー」 「おっと、もうこんな時間か。よし、シチューでも作るか」 「マリア、ファザーの料理大好き!マリアも手伝う!」 キッチンに向かうニール。その後をついていくマリア。 二人は仲良くシチューを作る。 「ティエリアを起してきてくれないか」 「はーい」 「にゃおん」 マリアが二階にかけあがる。ベッドの中で眠り続ける少女を揺らす。 「マザー、マザー、夕飯ができたよ!」 「ん・・・ああ、もうそんな時間か」 目を擦りながら、のっそりとティエリアが起き上がる。 「マリアもファザーと一緒に料理作ったの!」 「偉いね、マリア」 ティエリアに頭を撫でられて、マリアは得意そうに腰に手を当てた。 「マリア、これでもファザーから料理の腕認められてるんだから!」 「僕は、相変わらずニールに料理が下手といわれてるけどね」 「マザー、シチューが冷めるよ!早く食べよう!」 「ああ、今いくよ」 ティエリアは着替える。 ロシアンブルーの猫が、その着替えをじっと見つめていた。 「にゃおん」 「ティア、マリアのところに行っておいで」 「にゃあ」 返事をすると、ティアは階段をおりていく。 そのとき、ティエリアの瞳が金色にかわった。 涙が溢れていく。 なんだろう。とても大切なことを忘れてしまっている気がする。 なんなんだろう。 こんなにも、幸せなのに。 幸せすぎて、全てが嘘のように思える。 これは、全て現実なのに。 どうして、こんなにも悲しいのだろうか。 NEXT |