わいわい。 休暇をもらったガンダムマイスターたちは、温泉として名高い草津に来ていた。 経済特区東京に住む刹那が、商店街の福引であてたのだ。 刹那は無論いくつもりはなかったし、同じくティエリアもいくつもりなかった。刹那は、ロックオンにあたった福引券を渡した。好きな人間と一緒に行くといいという言葉と一緒に。 「おー、温泉かー。いいね」 ロックオンは、刹那から福引券をもらって天井にすかしてみせた。 そんなことをしたところで、偽者でもないのだから、何が変わるわけでもないのだが。 四人まで同行可能だった。 ガンダムマイスターもちょうど四人である。 こうして、ロックオン、アレルヤ、刹那、ティエリアは草津の温泉にくることになった。 刹那は東京で休暇を過ごすつもりであったし、ティエリアに到ってはトレミーで過ごすつもりであった。それを、ロックオンに、首根っこを捕まえられたように拉致された。 「どうして僕まで」 ティエリアは、次に発行する、ミス・スメラギとの合同同人誌の原稿を片手に来ていた。 原稿といっても、今回は小説が担当なので持ち運び可能なパソコンに文章を入力していく形となる。ちなみにジャンルはコードギアスで、ルルーシーのギャグ小説の担当であった。 カタカタと文章を打ち込んでいたかと思うと、保存してパソコンの電源を切る。 泊まる宿についたのだ。 そこは、ホテルだった。 わりと大きめなホテルに、ティエリアがきょろきょろとあたりを伺う。 石榴色の瞳は大きく零れ落ちんばかりで、まるで子兎だ。 白いミンクの毛皮がついた上着の下は、ロックオンが買ってくれたユニセックスな服を着ていて、一見すると美少女なのか美少年なのかなかなか判断がつかない。 中性的な容姿は、すでにかなり目立っている。 「お部屋にご案内いたします」 ベルボーイが、荷物をもって移動する。 「ありがとうございます」 アレルヤが丁寧にお辞儀をする。 ロックオンもそれに従う。刹那は無言だ。 ロックオンは、ティエリアの手を握っていた。放置しておくと、どこに行ってしまうのか分からない。 やがて案内された部屋は、和室だった。 「おー、日本の文化だなぁ」 ロックオンが、靴をぬいで早速コタツに入り、畳の感触を楽しむ。 アレルヤは、全員分の荷物を一箇所にまとめる。 部屋は広く、12畳の部屋が4つ続いていた。 四人とまるには十分な広さだろう。 コポコポと、備え付けられていたお茶に湯を注ぐロックオン。 四人分注いで、それをこたつの上に置く。 刹那は黙ってそれを飲んで、ダラリと顎から中身を垂らせた。 「俺は・・・緑茶が嫌いなんだ」 「そうなのか?」 ロックオンは、湯気のたったお茶を飲み、同じくおかれてあったせんべいを食べだす。 「夕食は6時だってさー。まだ2時間もあるね」 アレルヤがホテルの案内表やら何やらを見ている。 ティエリアは、窓にはりついて、日本庭園を眺めていた。 「おっしゃああ、早速温泉にいくか!」 「そうだねー」 「了解した」 「分かりました」 ロックオンの提案に、それぞれ下着とタオル、それに着替えの浴衣などを手に大温泉に向かう。 草津は日本の中でも、温泉としては有名どころだ。 悪い場所ではない。 そのまま、ロックオン、アレルヤ、刹那は男湯とたれた暖簾をくぐった。ティエリアもなんの躊躇もなしに暖簾をくぐって中に入る。 ロックオンが服を脱いで、たおるを腰にまく。 同じように、アレルヤも刹那もそれに続く。 遅れて入ってきたティエリアが、脱衣所の中に混じっていると、ロックオンは気づいていなかった。 そのまま、ティエリアはユニセックスな服を脱ぎ、黒のベストも脱ぐと裸になった。 「もぎゃああああああ!」 「あぎゃあああああ!」 男性の悲鳴に、ロックオンは何事かとそちらを向いて、目玉がバチコーンと飛び出しそうになった。 肌も露なティエリアが、裸を隠すことなく堂々と立っていたのである。 ロックオンだけでなく、アレルヤ、それに刹那、他の男性客も腰にタオルを巻いているというのに、なんたる凛々しい漢ぶりだろうか。 いや、問題はそこじゃなくて。 「ティエリアああああ!!!」 「はい?」 裸のまま、ティエリアは首を傾げる。 ロックオンは、思わずもっていたバスタオルをティエリアの胸の位置まで巻きつける。 ぐるぐる。 ティエリアは、何も言わずロックオンのされるがままになっている。 まっ平らというわけではないが、ティエリアには胸がある。無性の中性であるが、女性化してしまったゆえの僅かばかりのふくらみだ。 カップにすると、多分AAだろう。 11、12歳前後の少女の体。 それがティエリアの体のラインであった。 腰は折れそうなほどに細く、くびれている。それが、余計に男性ではないということを強調していた。おまけに、下肢は何もなく、本当になんにもない。男性がもつべきものを持たぬ体は、白い肌だけが際立っていて、とても未成熟な少女のようだった。 髪をバレッタであげたうなじから後れ毛が見える。 「ティエリアは女湯だろうがっ!」 他の男にティエリアの裸を見られたっ。 ロックオンは焦っている。 「何を言っているのですが、ロックオン。僕は女性ではありません。消去法をとると、僕は男性湯に入るべきです」 そのまま、ガラリと戸をあけて、ロックオンを置いて男湯にざぶざぶと浸かってしまった。 アレルヤも刹那も、ティエリアの突拍子な行動は慣れているので、同じように温泉に浸かる。 ロックオンの存在により、肌を露出することを拒まなくなったティエリアは、ある意味最強だ。私服からノーマルスーツに着替えるのだって、昔は一人一番遅れて着替えていたというのに、今では刹那、アレルヤ、ロックオンに混じって着替えている。黒のベストだって平気で脱ぐ。 愛しい人によって、ティエリアは変わった。 それはいいことなのだが。だがしかし。 「ねぇちゃん、度胸あるなー」 「ねぇちゃんは正しくはありません。兄ちゃんと呼んでください。僕は男です」 温泉に入っていた老人が、ティエリアに声をかける。 ティエリアの男という言葉に、老人は首を傾げたが、胸が全然なかったので、男性と理解したようであった。 幸いなことに、若い男性はいなかった。 年寄りが2、3人入っているだけだった。脱衣所で悲鳴をあげていた若い男性は、湯からあがって浴衣を着ていた。 どうしようか。 このまま、無理やりティエリアを女湯に入れるべきだろうか。だが、ティエリアは男性の裸に免疫はあっても、女性の裸に免疫はない。酒に酔っ払ってミス・スメラギがたまに半裸になったりするが、そのたびにティエリアは真っ赤になって慌てていた。 「やー、孫と温泉入ってる気分になるわ。一緒に入らないかって誘ったら、思いっきり断られたわ、わし」 老人の中にまじって、ティエリアは肩まで湯に浸かると、手ですくいあげてパシャシャと音をたてて遊んでいる。 「兄ちゃん肌白いなぁ」 「そうですか?」 ティエリアの肌は、雪のように白い。しみもほくろも一つさえない、完璧な美を誇る肉体。 「ティエリアは色白いよね」 「確かに白い」 「僕の肌は、日に焼けないので仕方ない」 刹那は、もってきた水鉄砲で遊びだしている。何気にアヒルグッズも一緒だ。 「刹那、そのアヒルかしてくれないか」 「ほら」 ティエリアが、あひるを湯に泳がせる。 氷の結晶が、微笑を零す。 「ロックオン?」 あどけない表情で、まだ湯に入ってこないロックオンに声をかえる。 「気持ちいいですよ。あなたも」 ロックオンは、ティエリアだけ無理に温泉に入らせないのもかわいそうだし、問題もないようなので良いかと判断した。 ロックオンも、温泉を楽しむ。 「隙あり!」 刹那の放った水鉄砲が、ロックオンの顔に直撃する。 「こらぁ、刹那あああ!」 刹那は舌を出している。 「美人な兄ちゃん、水鉄砲の出し方教えてあげよか」 「水鉄砲?手でできるものなのですか?」 「こうっやって、こうっやって、こうや」 ぴゅっと、老人の手のから水鉄砲がはね、パシャンと湯がはねる。 「こうですか?」 「おー、うまいうまい」 他の老人たちも褒める。 アレルヤと刹那も挑戦してみるが、上手くいかない。 ティエリアが、惜しみない笑顔を浮かべる。 ロックオンに向かって、ティエリアの水鉄砲ははねる。それを顔に受けて、ロックオンはぼんやりと考え込んでいた。 ティエリアの白い肌が、温泉に浸かっていることで綺麗なローズピンクの薔薇色に染まっていく。 長い睫を伏せて、じっとゆらゆらと漂う湯を見つめる。 「んじゃ、わしらあがるわ。あとは若いもんでたのしみな」 老人たちは、湯からあがってしまった。 ティエリアは、バイバイと手を振っていた。 刹那と一緒に、水鉄砲で撃ち合いをはじめる。 刹那は子供っぽいところがあるのは仕方のないことだが、ティエリアもわりと子供っぽい部分が、その精神的な未熟さゆえに多々あった。 「僕は、そろそろあがるね」 アレルヤが、湯からあがる。同じように、刹那もあがった。 「僕は、もう少しいる」 ロックオンもあがりたかったが、もしも若い男性客が入ってきてティエリアと何かあったらと考えるだけで、ぞっとした。 「ロックオン?」 上目遣いで、ティエリアが見上げてくる。 長い睫。潤んだ石榴色の瞳。ピンクの染まった白い肌。 手で、教えられた水鉄砲で湯の水を遊ばせる。 無邪気に。 やべ。 あーやべ。 あー、いろいろと俺やべぇ。 「ロックオンが好きすぎて、最近困ってます」 パシャンと湯が鳴る。 やべ。 あーやべ。 あー、いろいろと俺やべぇ。 上目遣いに見上げられ、ロックオンはドボドボと鼻血を出した。 「わ」 ティエリアが驚く。 「大丈夫で・・・すかぁ?」 ティエリアが、ぶくぶくとお湯の中に沈んでいく。 「おい、ティエリア」 抱き上げると、ふにゃりと全身の力が抜けていた。 「大丈夫、です・・・ふにゃ」 ふにゃふにゃと、こんにゃくのようだ。 「のぼせたな」 ロックオンはティエリアを抱き上げると、湯から出た。 「大丈夫、です」 少し風にあたったことで意識が浮上したティエリアは、しっかりと返事をした。 そして、互いに浴衣を着ると、手を繋いで部屋に戻った。 「好き、です」 「俺も大好きだよ」 ほんのり上気した肌の色を啄むように、少しだけキスをする。 部屋の中で。 「僕たちもいるんだけどなぁ」 「何を言っても無駄だろう、このバカップルには」 アレルヤと刹那は、ティエリアとロックオンを奥の部屋に隔離したのであった。 NEXT |