ユダ−背徳の罪−「ユダとなる者」







ラブファントム続編 ユダ−背徳の罪−
本編は、ラブファントムの特別EX番外編を除いた普通の完結編の後にくるお話となります。

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イオリアの研究所でひっそりとティエリアは暮らしている。
戦いも終わり、皆世界に散っていった中、ソレスタルビーイングのメンバーは皆お互いに連絡を取り合えっている。
この1年前から、ティエリアの行方が分からなくなっていた。
完全なる行方不明。
ソレスタルビーイングでは、かつての仲間たちがティエリアを探していた。
そんなティエリアは、CB研究員も知らない秘密のイオリアの研究所で暮らしていた。

「ユダ。僕は背徳の罪を背負う。神を裏切った暁の明星のルシフェルのように」

何年たっても色褪せない美しい姿で、ティエリアは目の前のカプセルにはりついた。

イオリアの本拠地であった研究所はすでに閉鎖されている。CB研究員が、イオリアの研究所を荒らされないように厳しく監視している。イオリアの研究所は地下にあった。そして、その上から新しくCBの研究所が建てられた。CB研究所の地下に埋葬されるように、ティエリアの兄弟たちは、眠ったままずっと保存されている。
もう、誰も兄弟たちを目覚めさせる者はいないだろう。

ティエリアの兄弟たちは、まだCB研究所が設立されて間もない頃は、ティエリアが壊れたときのストックでもあった。目覚めさせたティエリアは、他のティエリアタイプのバイオノイド、人工生命体とは少し違っていた。
他の兄弟たちにはない特徴を兼ね備え、ヴェーダとアクセスすることができた。他の兄弟たちは、イノベーターとしての能力は中途半端で、実際にティエリア以外の兄弟をはじめ目覚めさせたCB研究員は、目覚めた人工生命体がカプセルの外で長く生きられない事実を知り、絶望した。

そして、さらに地下にあった特別カプセルのティエリアが目覚めされられた。イオリアの研究所の記録によると、ティエリアと名づけられたその人工生命体は、イノベーターという新人類の特徴を兼ね備えており、カプセルの外でも長く生きられる。遺伝子に不老の細工を施され、IQは180をこえており、美の集大成のような容姿に、何よりもイオリアの時代に生きて彼の研究を手伝っていたという記録が、CB研究員たちがティエリアを目覚めさせるきっかけとなった。

イオリアの時代、ティエリアは女性としての自我を築き、女性として生き、イオリアを支えながら一緒に未来のための研究を繰り返していた。イオリアは自分が死ぬ前に、ティエリアをガンダムマイスターとなるようにコンピューターに設定し、いつかイオリアの計画を遂行する者が現れた時に覚醒させるように託した。
イオリアの申し子。ティエリアは、CB研究員かそう呼ばれていた。

体は、他のティエリアタイプとは違い、無性の中性体。
天使のように、性別が存在しない。両性具有も同じ中性体であるが、決定的に違うのは、その体に女性とも男性とも決定づけるものが備わっていない点であった。
完全なる無性の天使。それがティエリア。
ティエリアはガンダムマイスターとして生きた。
一度は崩壊しかけたソレスタルビーイングを建て直し、リーダーとして歩んだ。ティエリアの隣には、いつも同じガンダムマイスターであるロックオン・ストラトスの存在があった。

ティエリアとロックオンは恋人同士であった。
誰もが認める、愛し愛されあうそれは仲の良い恋人だった。
ティエリアは無性であったが、ロックオンは性別に関係なくティエリアを愛した。ティエリアは自然と女性化が進み、無性でありながらその存在はどこか女性よりになっていた。
共に、厳しい戦闘を何度も潜り抜ける。
そして、得たものは。

「もう一度あなたに出会う。愛しているから」

得たものは、ロックオンの死という、あまりにも残酷な結末。
愛していた人に残されたティエリアは、それでもずっとロックオンのことを愛し続けていた。
やがて四年という孤独を乗り切り、他のガンダムマイスターたちと邂逅する。
刹那・F・セイエイとティエリアは、比翼の鳥のような存在になっていた。擬似恋人、擬似恋愛。ロックオンを失った部分を、刹那が補った。
自然と、二人は愛し合うようになっていた。
心から愛する相手がいながら、魂の双子でありながらティエリアはロックオンの以外の、刹那とも肉体関係をもてしまった。歪んでしまった愛。だが、それでも二人は構わなかった。お互いに傍にいられるなら、その愛がたとえ歪んでいるとしても構わなかったのだ。
そして二人の関係は戦いが終わり、終わっても更に続くように思えたが、刹那が心から愛したマリナという女性の存在により、刹那とティエリアの関係は終わりを告げた。
最初は三人で家族のように暮らしていた。
ティエリアは幸せだった。
刹那もマリナもティエリアのことを大切にしてくれた。幸せだった。

だが、ティエリアは気づいてしまったのだ。未だに、刹那がティエリアのことを誰よりも愛していることに。そう、愛を誓った大切な女性であるマリナより、愛していると。
ティエリアは、いつの間にか刹那から遠のくようになっていた。マリナから、刹那を奪いたくない。ただその一心で、ティエリアはついには一緒に暮らしていた中東の家を出て、一人でアイルランドに住むようになった。
それでも、頻繁に連絡をとりあい、刹那とは毎日のように携帯で話をしていた。声を毎日のように聞いていた。
なぜなら、ティエリアもまだ刹那を愛していたから。
ティエリアはCB研究員となり、頭脳を活かして働いた。
刹那は、ティエリアのいるアイルランドに頻繁に訪れた。マリナを放置して。
二人は、また歪んだ、魂より深い愛を螺旋のように複雑に続かせるように見えたが、ある日ティエリアが失踪した。何も残さずに。

「僕は刹那を愛していた。今でも愛している」
じっと、カプセルにはりつきながら、涙を流す。
愛しているからこそ、傍にはもういられないのだ。刹那には、マリナがいるのだから。
「許してください。あなたがいながら、僕は刹那を愛してしまった。僕はユダ、裏切り者です。背徳の罪を背負っています」
コポポポ・・・・。
カプセルの中の人工羊水が音をたてる。
ティエリアは、石榴の瞳で、カプセルの中を見る。
イオリアの研究の全てを費やした、ティエリアの人生の全てをかけた最高の・・・・。

「愛しています、ロックオン」

ユダとなったティエリアは、すでにもう壊れていた。

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