地元の町に買い物に出かけた。 ロックオンを残して、食材を買い込み車に積み込む。 服も新しくいくつも買い込む。 王留美の口座から、巨額の金額を引き出し、別の口座にいれた。足跡がつかぬように。かつての仲間たちに見つからないように、わざと。 なぜなら、背徳の罪を背負っているから。 研究所の生活区域、普通の家に戻ると、ロックオンはソファーに座って本を読んでいた。 昔、ロックオンがよく読んでいた本だ。 何度も往復して食材を食物庫や冷蔵庫に入れる。 そのまま、今度は買い漁った衣服をもってくる。 「ロックオン、あなたの服です」 「ありがとさん」 紙袋を受けとる。 「なぁ、天使さん。なんで俺にこんなによくしてくれるんだ?」 「あなたを愛しているからです」 ロックオンの記憶は、まだ鮮明でない。 どこか、不具合でもあったのだろうか。ナノマシンを脳に入れることは成功した。 人格の形成にも成功した。 だが、人がもつ海馬の記憶を丸ごと移籍なんてできない。ナノマシンに記憶されたデータは、完全なものにならなかったのだろうか。 まだ、よく分からない。 神の倫理を冒して、ロックオンを蘇らせた。 記憶も、人格も。 神が、それを許さず、ロックオンを完全なものにすることを拒んでいるのだろうか。 それでもいい。 もう、後戻りはできないんだ。 「天使ではなく、ティエリアと呼んでください」 「ティエリア」 「そうです」 「・・・・・・・・・・懐かしいな。ジャボテンダー抱き枕か」 寝室に案内すると、そこに寝そべっていたジャボテンダー抱き枕を、ロックオンが拾い上げる。 「思い出したのですか?」 「うん、少しだけ」 「ジャボテンダーさん、ロックオンですよ?分かりますか?」 「あいかわらずなんだな。ジャボテンダーに話しかける癖、まだ直ってないんだ」 「ジャボテンダーさんは僕の親友ですから」 ロックオンからジャボテンダー抱き枕を受け取って、愛しそうに抱きしめる。 笑顔。 花も萎れるように、壮絶なる美しさ。 妖艶で、そしてどこかあどけない幼さをひめた笑顔がこぼれる。 「ジャボテンダー抱き枕、何度も繕ったなぁ。ティエリアが乱暴に扱うから、よく破れた」 「あなたのお陰で、ジャボテンダーさんは今も健在です。自分で繕えるようになりました。買い直そうとも思ったのですが、あなたと一緒に愛の時間を過ごしたジャボテンダーさんなので。捨てられませんでした」 「そっか。裁縫苦手だったのに、できるようになったんだ。偉いな」 ロックオンの手が、ティエリアの頭を撫でる。 「もっと、撫でてください」 「いくらでも」 優しく優しく、ロックオンの手がティエリアの頭を撫でる。 そっと、顎に手がかけられ、上を向かされた。 少しだけ開いた桜色の唇が、艶っぽい。 「ティエリアは、変わらず美人だな」 唇を、ロックオンの手がなぞる。 「愛しています。あなたを、誰よりも愛しています」 「俺も愛してるよ、ティエリア」 白い肌をすべる、ロックオンの手。 頬に添えられて、ティエリアは目を瞑った。 「あなたの体温が、ここにある」 「ティエリア」 手に手を重ねる。 そのまま、自然と唇を重ねた。 NEXT |