「おっしゃあ。作るぜぇ!」 ロックオンは、キッチンで腕まくりをした。 じゃがいもを、ロックオンが包丁で剥いていく。 その隣では、ティエリアが、人参を切っていた。包丁とじっと睨めっこだ。 料理腕は変わらずで、包丁をふりあげては、ダン、ダンと大まかにきっていく。 「ティエリア、怖いから手伝わなくていいって。見てて危なっかしい」 「そうですか?」 また包丁をふりあげる。 切断された人参が、ころころと床に転がった。 「俺がちゃんと作るから。じっとしててくれ」 「分かりました」 そのまま、ロックオンはジャガイモの皮をむいて切る。人参もきって、玉ねぎも切る。そのまま、なべに放り込んだ。冷凍のシーフードパックを解凍して、煮立ったなべに加える。 グリーンピースとコーンも追加する。 「よし、あとはジャガイモのサラダと、ポテトでも作るか」 鮮やかな腕でサラダに、ポテトも作っていく。 シチューのなべをかきまわすロックオンを、ティエリアはずっと眺めていた。 「よーし、完成」 「お疲れ様」 「どういたしまして」 「じゃがいもだらけですね」 「そりゃ、俺はじゃがいも好きだからな。俺の生まれ故郷は・・・・あれ、どこだっけ?」 「アイルランドですよ」 「そうそう、アイルランドだ。どうしてこんな大切なこと忘れちまってるんだろ?」 「調子が悪いだけですよ」 ティエリアの顔は、青ざめていた。 記憶が、完全なものにならない。 どうしてだ。 どうしてなんだ。 この背徳はやはり許されないというのか。 完全なロックオン・ストラトスを求めるのは、やはり不可能なのか。 ふっと、ティエリアが自嘲気味に笑った。 それでもいいじゃないか。 ロックオンであることに変わりないんだから。 完全じゃなくても。不完全でも、愛すると決めたんだから。 「いただきます」 「いただきます」 それぞれ、食事をはじめる。 「味はどうだ、ティエリア?」 「おいしいですよ」 にっこりと微笑む。 「そうか、良かった」 ロックオンも、同じように美味しそうに食べる。 「我ながらなかなかのできだぜ」 クスリと、ティエリアが笑みを零す。 「なぁ。刹那とアレルヤは?」 カタン。 ティエリアの手から、スプーンが落ちた。 「どうしたんだ?」 「い、いいえ、なんでもないんです」 スプーンを拾い上げる。 「刹那とアレルヤはどこに行ったんだ?どうして帰ってこない?」 「彼らは、もう帰ってきません。二人とも、ガンダムマイスターを辞めたんです」 「なんだって!」 ロックオンが声を荒げた。 立ち上がり、ティエリアの肩を揺さぶる。 「なんでやめちまったんだよ。俺たち、仲間じゃなかったのかよ!」 「落ち着いて下さい。戦争が終わったんです」 「え?」 「あなたは、戦闘で負傷して、ずっと昏睡状態だったんです。目覚めた時には、もう戦いは終わっていました」 ロックオンは、自分がティエリアに作られた人工の生命体であることを記憶していない。 「戦いが終わって・・・・・」 呆然とするロックオン。 ズキン。 「頭が、痛い・・・」 「ロックオン!」 ティエリアが、しゃがみこんだロックオンにおろおろする。 「頭が割れそうだ・・・・なんなんだ、これ・・・・」 「無理しないでください!あなたはまだ、完全ではないのです」 ティエリアが、食事を中断して、ロックオンの肩に手を回すと、頭痛を訴えるロックオンに薬を飲ませ、そのままベッドに横たえる。 「なぁ、ティエリア」 「なんですか?」 天井を見上げるロックオン。 「俺、何か大切なことを忘れてる気がするんだ」 「気のせいですよ」 ズキリと、ティエリアの心が痛んだ。 これは、ペインだ。 ユダに与えられたペイン。 痛み。 神の領域を侵した報いなのだ。 NEXT |