ユダ−背徳の罪−「蝕まれていく」







一緒のベッドで、抱き合って眠った。
ふと目覚めると、ロックオンの姿がない。
ティエリアは慌てた。
居住区のどこを探しても見つからない。
研究所まで足を運んだが、そこにもいなかった。
「どこですか、ロックオン、どこですか!?」
ティエリアは泣きながら、ロックオンの姿を探す。
外に出ると、車がなくなっていた。
「ロックオン!!」

居なくなってしまったのか。
呆然と、佇む。
すると、車のクラクションが鳴った。
「ロックオン?」
ロックオンが、町から車で帰ってきたのだ。
「よいこらせ」
買い込んだ食材を片手に、車を降りる。
「ロックオン!勝手にいなくならないで下さい!嫌です!!」
ティエリアは泣きじゃくりながら、ロックオンに縋りついた。
「ごめん、ごめん。ちょっと買い物に行ってただけだ」
「買い物に行く時は、一緒に行きましょう。お願いです。僕を捨てないで」
「分かった。これからは一緒にちゃんと行くから。ティエリアを捨てたりしないから、安心しろ」
そのまま家に戻る。
ロックオンは、食材をテーブルの上に出すと、水道の水で洗った。
皿の上に盛って、ティエリアの座るソファーに戻ってくる。
「何を、買ってきたのですか?」
「ほら、これ」
「苺さんだ」
「大好きだったろう?食べたいだろうと思って」
「ありがとうございます!」
ティエリアは、思い切りロックオンに抱きついた。
「うわわわわ」
落ちそうになる皿を、なんとかバランスを保って持ち上げる。
そのまま、テーブルの上に置く。

ロックオンは、苺を一つ口の中に放り込んだ。
「ロックオン?」
そのまま、ティエリアに口付ける。
「ふ・・・・」
半分になった苺を、ティエリアが食べる。
今度は、ティエリアは苺を口にして、ロックオンに口付けた。
半分になった苺が、ロックオンの舌に絡めとられていく。
そのまま、お互いに食べさせあう。

「僕は、あなたともう一度出合った。もう、離さない」
「・・・・・・意味が、よくわかんねぇ。俺は、ずっとティエリアの傍にいただろ?その、事故を起こして昏睡状態になるまで、ずっとティエリアの傍にいたじゃないか」
「あなたは、僕を残していった」
ティエリアは、長い睫を伏せる。

それは、本当のロックオンは死んだという意味だったが、目の前のロックオンには分からないだろう。

「そりゃ、お前を置いて昏睡状態になっちまったけど。でも、ちゃんと還ってきただろう?」
「はい。あなたは、僕の元に還ってきてくれました。もう、手放しません」
「俺も、ティエリアを手放さない」
「じゃあ、僕をいっそ鳥篭に閉じ込めてください」
「そんなこと言ってると、本当に閉じ込めちまうぞ?足に鎖をつけて、籠の中に入れちまう」
「あなたになら、構いません。あなたになら、殺されたっていい」
「ばかなこと言うなって。冗談だって」
ロックオンのエメラルドの瞳が優しく輝く。
「俺はティエリアを愛しているから、ティエリアを大事にしたい」
「僕も、ロックオンのことを大事に・・・・・・・げふっ、けほっ、けほっ」
「おい、どうした?」
「すみません、ちょっと洗面所に・・・・」
ティエリアは駆け出した。
見られてはいけない。
彼を不安にさせてしまう。
「けほっ、けほっ」
ゴボリ。
洗面所の水に、真紅が混じる。
ティエリアは、吐血していた。
「くそ・・・・」
鏡に手をつき、専用の薬を飲む。CB研究員が開発した、ティエリアの発作をおさえる特別な薬だ。

イノベーターであるティエリアの体は、完全なものであったように見えた。
だが、無性という自然ではありえない体のつくりから、戦争が終わった直後あたりから、少しずつ病に蝕まれていった。
病名の不明の病気。
薬を飲まなければ、時折発作を起こして吐血する。

「げほっ」
また、血を吐いた。
その量に、ティエリアが驚いた。

「これは、報いなのか。神の領域を侵したことへの罰なのか。いやだ、僕はまだ死にたくない。あの人を残して、死ぬものか!」

薬をまた飲む。
処方された薬の量は大量であったが、失踪した一年前から、CB研究員の前には姿を現していない。
自分で薬を作ったが、処方された薬と成分がどうしても違う。
もう、処方された薬は先月で尽きてしまった。
薬で発作はすぐにおさまり、普通の生活ができていたが、ここ一ヶ月で発作の回数が増えた気がする。

ティエリアは、血に濡れた手で、鏡に手をつく。
鮮やか過ぎる紅の痕が残される。

「罰は受ける。いつか。だが、今はまだそのときじゃない」
ティエリアは涙を零した。



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