ユダ。 裏切り者。 僕は、世界を裏切る。 僕は、仲間を裏切る。 僕は、神を裏切る。 「ティエリア、朝だぞー」 「んー、あと10分・・・・むにゃむにゃ」 「もう11時だぞ?」 「12時まで寝ます・・・・」 「だーめ。いい加減起きろ」 布団と毛布をはがされる。 「ほら、目を開けて」 「ふぁい・・・・・」 ティエリアは、眠そうに目を擦って、のろのろと起き上がると洗面所に向かう。 そのまま、冷たい水でばしゃばしゃ歯を洗って、顔を磨いた。 「ティエリア、何歯磨きで顔磨いてんだ!」 ロックオンが焦って、ティエリアの手を止める。 「ふぁい?」 歯磨き粉だらけになったティエリアの顔を、濡れたタオルで綺麗に拭き取ってやる。 「歯磨き粉は、歯を磨くもので、顔を磨くものじゃありません」 「・・・・・・ふぁい」 そう返事をして、ティエリアは歯を磨いた。 ガラガラ、ゴックン。 「ちょ、何飲み込んでるんだ!ちゃんと吐き出せ!」 「・・・・・あい」 口をすすいで、今度はちゃんと吐き出した。 そして、顔を洗う。 お約束のように、タオルではなくロックオンの服で顔をふく。 「こらこら。ちゃんとタオルで顔をふけ」 「・・・・・・ふぁい・・・・・ZZZZZ] 「立ったまま寝るなぁ!」 「ZZZZZZzzzz・・・・・」 本当に、ティエリアは立ったまま眠ってしまった。 仕方なしに、その体を抱き上げて、ベッドまで戻す。 そっと横たえる。 ぎゅっと、ティエリアの手はロックオンの服を掴んだままだ。 ロックオンは愛しそうにティエリアの頭をなで、頬にキスをすると、一緒にベッドで丸くなる。 ティエリアを抱き寄せて、体温が伝わるように。 「俺とティエリアの時間」 ティエリアをもう一度抱き寄せる。 冷たい氷の花は、あどけない表情で眠っている。 「眠り姫」 サラサラな紫紺の髪を撫でる。 「天使なのに、ほんとに翼はないんだな」 ティエリアの背中に翼はない。 意味深げな、天使をイメージして作られた証である、翼の刻印が肩甲骨の両方に彫られている。 それはGN粒子の淡い光を放って、ティエリアが金色に瞳を輝かせた時にしか見ることができない。 「イオリアのおっさんは、ティエリアを天使として生み出したんだろうな」 無性であることが、何よりの決定的なものとなる。 そして、背中の翼の刻印は、どう見ても天使の翼だ。 翼のない天使。 天使は無性である。その体に性別を備えていない。 ティエリアも無性の中性体だ。女性化は進んでいるけれど、無性であることに変わりはなかった。 「愛してるよ、ティエリア」 ティエリアの桜色の唇に唇を重ねる。 あどけない幼子の表情で、ティエリアは眠ったままだった。 NEXT |