カナリア「アダムとイブになりたい」







カナリア。
綺麗な声で歌う鳥。
カナリア。
魂の唄を捧げよう。
誰でもない、あなただけのために。
あなたのことだけを記憶して。
忘れないように、忘れないように。
カナリア。
綺麗な声で歌う鳥。

どうか、僕のことを忘れないで。
僕が消えてしまったとしても忘れないで。
僕は、ずっとずっとあなたのことを想ってこの世界に在れたから。
どうか、僕が消えてしまっても忘れないで。
愛しています。この想いだけは、真実だから。

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「愛しています」
そっと、ベッドに眠るロックオンの頬にキスをする。
隣にいてくれるその温度に、安心してティエリアはまた横になる。毛布を被り、布団をかぶって大好きなジャボテンダー抱き枕を抱きしめながら。

人間になれて良かったと思う。
ロックオンと出会えて良かったと思う。
こんなにも満ち足りて、幸せになれたのだから。
人間は素晴らしい。
愛という感情は、こんなにも素晴らしい。愛することはなんて素敵なんだろう。
脆くて儚いがゆえに、純粋で透明で。

じっと石榴色の瞳でロックオンを見つめていると、ゆっくりとエメラルドの瞳が開いた。
「ロックオン?」
「どうした、眠れないのか?」
一緒に、ロックオンのベッドで眠っていた。ティエリアは、ロックオンと一緒のベッドに眠ることはそう珍しいことでもなかった。
怖い夢を見るのだ。
処分されてしまう夢を。
その夢を見るのが怖くて、こうしてロックオンと一緒に眠る。
一緒に眠ると、不思議とそのいつも見る怖い夢は見なかった。

「ちゃんと傍にいるから、安心して寝ろ」
「はい。あなたはちゃんと僕の傍にいてくれています」
伸ばされた手を、ゆっくり握り締め返す。
そのまま、ベッドの中で引き寄せられる。
甘い吐息が、ティエリアの桜色の唇から漏れる。瞳を伏せる。ガーネットの明るい紅が、数回瞬きをしたかと思うと、ロックオンの瞳をじっと見つめる。
「愛しています。この想いは、真実だから」
「そんなこと、知ってる」

触れるだけのキスがくる。
砂糖のように甘い。
とても優しいロックオン。

この時間が永遠であればと思う。
時が止まってしまえばいいのに。
そんな、叶わないことを考える。

二人きりでずっと愛し合えたら幸せだろうな。エデンを追放される前のアダムとイヴのように。

「アダムとイヴ」
「アダムとイヴがどうした?」
「エデンにいた頃のアダムとイヴになりたい」
「何言ってるんだ」
「二人きりで、幸せに暮らせていたから」
「でも、アダムとイヴは禁断の果実の実を口にしてエデンを追放されるんだぜ?」
「それでも、追放されても二人は一緒だった。アダムとイヴになりたい」
「そんなこと思わなくなって、ちゃんと二人一緒じゃないか。ちゃんと傍にいるから」
「はい。信じています。あなたは、いつも僕の傍にいてくれると」
時計を見ると、まだ午前4時だった。
「ほら、いいからもう少し眠れ」
優しく、ロックオンが頭を撫でてくれる。
安心しきっているうちに、少しづつ眠気がまたやってくる。起床時間は8時だ。まだ4時間もある。
もう少し、眠ろう。

ティエリアは目を閉じた。
ロックオンも目を閉じる。
お互いの体温を共有しあうように、抱き合って眠る。
浅いけれど、安堵感から再び二人は眠りについた。


カナリア。
綺麗な声で歌う鳥。
カナリア。
魂の唄を捧げよう。
誰でもない、あなただけのために。
あなたのことだけを記憶して。
忘れないように、忘れないように。
カナリア。
綺麗な声で歌う鳥。





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