カナリア「羽ばたくカナリア」







ミッションから帰ってきたロックオンを、ティエリアが出迎える。
「お帰りなさい、ロックオン」
「只今、ティエリア」
愛しそうに抱き寄せ、口付ける。
ティエリアは、トレミーのクルーとも打ち解けていった。
驚異的な回復力だ。
一度自我が壊れた人間は、狂ったまま元には戻らない。ティエリアが人工生命体であり、イノベーターという新人類であることが、響いているのかもしれない。
「カナリアの唄、聞く?」
「ああ、聞くよ」
ティエリアはまた歌う。
歌う曲は、どんどん広がっていく。
昔のように、よく歌っていた遥かなる歌姫の曲から、ティエリアが失踪する直前に売れていた唄など、とにかく唄はティエリアをティエリアらしくさせていく。

「カナリア・・・・・捨てられたんじゃなかったんだね。このロケットペンダントの中の人と、あなたは同じだ」
「そうだ。同じだ。俺は、ティエリアを捨ててなんかいない。愛しているよ」
「苦しいことや痛いことがあると、このロケットペンダントの中身を見ていたの。笑顔を見ると、カナリアは哀しくなくなって、歌えるから」
「そうか。でも、実物もいいだろ?」
「うん」
ロックオンは、エメラルドの瞳を細めて、ティエリアの頭を撫でる。

ティエリアは歌う。
鳥篭の中で囀るカナリアのように。
綺麗な声で歌う。

やがて歌いつかれて、ティエリアは眠ってしまった。
ロックオンは、そんなティエリアの額にキスを落とすと、毛布をかける。

そんな毎日が過ぎていく。
穏やかな日々。

だが、やはり発作はおきる。
「いやああああああ!!」
暴れまくるティエリアに、鎮静剤が打たれる。
ロックオンも、随分疲れていた。
ある日、ロックオンが疲労から倒れてしまう。
治療カプセルに入れられたロックオンを、ティエリアがじっとカプセルに貼り付いて見つめていた。

「ティエリア。ロックオンと、お別れはできた?」
「カナリアは、また捨てられるんだね」
「違うわ。あなたは、新しい明日を手に入れるために旅立つのよ。羽ばたくの」
ミス・スメラギが幼いままのティエリアを抱きしめる。
「ティエリア、好きよ。どうか還ってきて。私は、少しの可能性もある限り、ロックオンと同じように希望を捨てないわ」
「カナリアの唄、聞く?」
ミス・スメラギは泣いていた。
「そうね。唄が聞きたいわ」
ティエリアは綺麗な声で歌う。カナリアよりも綺麗な声で。

そのまま、ロックオンが意識不明の間に、ティエリアはトレミーからおろされた。
全てはミス・スメラギの指示であった。

 

カナリア。
綺麗な声で歌う鳥。
カナリア。
魂の唄を捧げよう。
誰でもない、あなただけのために。
あなたのことだけを記憶して。
忘れないように、忘れないように。
カナリア。
綺麗な声で歌う鳥。


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