ナイトクロス「綺麗だよ、ティエリア」







愛は深く螺旋を描く。
ティエリア、刹那、ライルの三人の感情を巻き込んで。
複雑な螺旋を描く。

奪い合いのない、静かな愛の描き方。

「ナイトクロス・・・・どうか、僕を守って」
刹那がくれた十字架をそっと握り締める。

「すげぇ美人・・・・たまんねぇ」
アロウズの高官や財政界のメンバーが集うパーティーに、諜報部員として出席することになったティエリアを、まじまじとライルが見つめる。
モデルのようにスラリとした背の高い細さをいかして、マーメイドドレスを着させられた。胸は、人工バストでDカップくらいのなかなかの巨乳だ。
ウィッグは腰に届きそうなほどに長い紫紺のストレートな髪。
眼球保護のために、眼鏡は外してコンタクトをしている。
女性陣たちに人形のように美しく飾られたティエリア。
女神のようだ。絶世の、美少女。顔は化粧とよべるものは唇にはいた紅くらいだろうか。綺麗に弧を描く眉もそのままで、長い睫をカールさせることもしなかった。頬にファンデーションを塗ることもない。
そんな必要がないのだ、ティエリアには。
紅をしくだけで、十分だった。雪のような白すぎる肌が、紅いドレスとのコントラストでティエリアの白さを一層引き立て、魅力的に見せている。

無性の中性体であるからこそ、男性が女装したような無理は生じない。骨格はもともと女性の作りを基礎としており、肉体もその骨格をもとにラインを描いている。
幼い少女の滑らかなラインを描く体を、完璧なレディのものにしたてあげるのは簡単なことだった。

「ほら、ティエリア。恥ずかしくないから、こっちに来なさい」
ティエリアは、ライルとアレルヤの視線から隠れるように、奥の方にひきこんでしまった。
だが、これもミッションだと自分に言い聞かせる。
ニールが生きていた頃は、ゴシックロリータがはいった服を着ることもあった。ユニセックスな服をよく身につけ、女性の服を着ることに違和感や抵抗感はそれほどなくなるほど慣らされてしまったが、流石に人工バストまで身につけて、昔はスカートのしたには半ズボンをはいていたのだが、それさえも許されない、腰までスリットが深く入った露出度の高い、ドレス、というものにはいくらばかりかの抵抗感がある。
ニールはティエリアに、ドレスのような大人の女性の格好はさせなかった。どちらかというとゴシックロリータの入った人形が着るようなフレルやレース、リボンがあふれた幼いデザインを選んだし、それも頻繁なものではなく、ティエリアがニールよって買い与えられ着る服の80%がユニセックスな、中性的な男女どちらが着てもおかしくないような服装で、ティエリアもその格好が気に入ってよくユニセックスな服を着ていた。
それでも女性にほほ完全に間違われたティエリア。

ミス・スメラギに手をひかれ、おろおろとしながらも、ティエリアは皆の前に隠れることなく姿を現す。
「これでは、何かあったときに走りにくいな」
ピンヒールをはいたティエリアは、しきりに足元を気にした。ブーツなら、走るのに支障はないだろうが、ピンヒールだと走ること自体無理かもしれない。
肩や首は露出し、スカートの部分には腰まで届きそうな深いスリットが入っている。
ティエリアは、スリットの入っていない側の太ももにガーターベルトをし、そこに拳銃を忍ばせた。
流石に、ミス・スメラギも驚いたようだ。
しかし、細い肢体の身体のラインを協調するようなドレスだと、他に隠しようがない。だからといって、拳銃を持たぬままの視察も、危険であるとティエリアは考えていた。
ガンダムマイスターの中でも、素手での拳銃の腕はライルや昔のニールをも凌ぎ、圧倒的にティエリアが上だった。
筋肉のつくことのできぬ体では、出す力も限られている。そのせいか、ティエリアはガンダムマイスターとなった頃から拳銃の腕をずっと磨いていた。ニールよりも、その2倍も3倍も努力して射撃訓練を行った。
動体視力は半端ではない。

「笑ってみて、ティエリア…そう、とても綺麗よ。その自然な笑みを忘れないでね」
フェルトが、最後の仕上げとばかりに、ティエリアのドレスの裾のしわを綺麗に伸ばす。

「綺麗ですよ、ティエリアさん」
マリーに褒められ、ティエリアは頬を染めた。薔薇色に染まった頬で、恥ずかしそうにしている。
ティエリアは、誰よりも可憐で魅惑的な一人の女性になっていた。
もともと身長が高いせいもあり、細い肢体を強調したのは正解だった。モデルのように均整のとれたプロポーションと、どんな美女にも負けない美しい容姿。

「なんていうか…本当に美人だよ、ティエリア」
アレルヤが、他に言葉を見つけられないとばかりに賛美した。
「ティエリア…どうか、一曲踊ってくれないか」
最初は開いた口が塞がらなかったライルであったが、絶世の美女を前に、それがティエリアであると分かっていながらも、そう言って手を伸ばすことを止められなかった。
「ええ。喜んで、お相手いたします」
レディらしい挨拶をして、ティエリアは綺麗な笑みを浮かべてライルの手を取った。
「え?え?えええええ!?」
ティエリアが、そっと寄り添ってくる。
「あら、私とは踊ってくださりませんの?」
甘い花の香りが、ライルの思考を麻痺させた。
ティエリアの腰に手を回し、自分のほうに引き寄せると、赤い紅をひいた唇に自分の唇を重ねようとした。
ジャキリ。
いつの間にか、ガーターベルトから抜かれた拳銃が、ライルの顎に突きつけられていた。
「調子に乗らないでいただきたい」
絶世の美女が、そうドスを利かせた。
「ティエリア、最強……」
両手を挙げて降参したライルに、ティエリアは満足したのかガーターベルトの中に拳銃を直した。

「その胸、一体どうなってるんだ?本物にしかみえねえ」
「人工バストだ」
「しっかし、恐ろしいくらいに化けたもんだな。もともと凄い美人だけどさ・・・・」
「もう少し、マシな表現をして下さい」
人工バストといわれても、胸は本物のように見えた。
肩と首の露出が、赤いドレスから見える白い肌をより際立たせていた。スカートのスリットから見える太ももが、特に目の毒だ。
本当に、どこからどう見ても絶世の美女にしか見えなかった。
背は高かったが、肩幅もないし、腰はコルセットで締め上げていないだろうに、折れそうに細かった。それに、くびれている。
「本当に…綺麗だ」
熱の篭った台詞に、ティエリアは耳まで真っ赤になった。

「ぼ、僕は綺麗ではなく、かっこいいのです!」
ツーン。
北極か南極の氷のようなツンデレラぶり。
「ジャボテンダーさんが・・・・僕の姿を見て、辟易してました。このドレスも人工バストも、きっとジャボテンダーさんのほうが似合う」
いや、それはないから。
それは無理があるから。

「ほら、ティエリア。ジャボテンダーよ」
フェルトが、元気をなくしてしまったティエリアを勇気づけようと、ティエリアの部屋からジャボテンダー抱き枕を持ってきた。
それを、ライルが受け取る。
「どうするの、ライル?」

ライルは、地声のまま、ジャボテンダーの手足を動かして声を出す。
「とっても似合っているわ、ティエリア。流石私の愛しいティエリア。素敵よ。ほら、もっと自分に自信をもって。胸をはって顔をあげてごらんなさい。あなたは、こんなにも素敵。私が保証するわ」
「ジャボテンダーさん!!!」
きらきらと、幾つもの宝石が輝くように瞳を輝かせるティエリア。
ライルの芝居は子供っぽかったが、ティエリアのハートを掴んだようだった。
愛しのジャボテンダーさんに、褒められた。
「僕は、頑張る」
「その調子よ」
ミス・スメラギが満足したように頷いた。

ライルの手から、愛しのジャボテンダー抱き枕を受け取って、ぎゅっと抱きしめるティエリア。
大人びた女性の姿をしているが、その表情はあどけなく、幼い。

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台詞とか文章、ティエリア女装ネタの読みきりちょっと使いまわしてます。
手を抜いてるわけじゃないですよ!
ただ、読み切りとあまりにも違うシーンになると、読みきりが浮いてしまうので。冬葉の作品は、長編の中でも読みきりのシーンの一部の欠片(何かを誰かに贈ったとか)そういうシーンが頻繁に出てきて連鎖しています。
読みきりも大切にしたいです。冬葉の創作にかわりはないので。



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