「大丈夫・・・・自信を持って」 ティエリアは女性らしく、会場のどの女性よりも可憐に振舞った。 そのまま、リボンズと運命的な出会いをする。 (連邦の権力に縋るクズどもが・・・・) 表面的にはにこやかな笑みを浮かべ、女性らしく振舞うティエリアであったが、心の中では冷たい侮蔑で人々を見つめていた。 「失礼。はじめまして、リボンズ・アルマークと申します」 かけられた声に、ティエリアははっとなって顔をあげ、振り返る。 「一曲、いかがですか?」 ゆっくり差し伸べたれた手を、じっと見つめる。 (この男が・・・・) 世界を、歪めている張本人なのだろうか。 淡い緑の髪の、正装をした少年は、とても整った容姿をしていた。 二人で、踊りだす。 「まさか、そのような格好で現れるとは思わなかったよ」 いかいにも心外そうな声を出される。 「マイスターは男だと知られている。戦術予報士の指示に従ったまでだ」 流れる音楽。 パーティーに出席した誰もが、パーティーの主催者であるリボンズと踊るティエリアの二人を見つめている。羨望の眼差しで。 「リジェネ・レジェッタをさしむけたのは君か?」 「まさか。彼の悪戯に、僕も振り回されているよ」 にこりと、微笑まれる。 「イオリア・シュヘンベルグの計画を実行していると聞いた」 「信じられないかい?なら、今すぐ君に返してもいいよ」 そっと、踊りながら引き寄せられる。 耳元で、甘い声が囁く。 「ヴェーダへのアクセス権を」 ティエリアは、思わず躓きそうになった。それを、リボンズが攫う。 「アクセス権?君は掌握しているというのか」 信じられない表情で、ティエリアは目の前の少年、リボンズ・アルマークを見る。 「ふ・・・・」 意味深げな笑みを零すリボンズ。 パチパチパチパチ。 たくさんの拍手の中、二人は離れる。 隣を通りすぎていくリボンズが、耳元でまた囁いた。 「少し、場所を変えようか」 パチパチパチ。薪が爆ぜる。踊り狂う炎に照らされながら、ティエリアはもう女性ソプラノの声を出さず、地声を出していた。 「ヴェーダを掌握しているというのは本当なのか?」 「身に覚えがあるはずだよ」 「ま、まさか・・・スローネに行った、トライアルシステムの強制解除は・・・・」 コポポポポ。 ワインが、グラスにつがれる。 「ということは、擬似GNドライブを国連軍に渡したのも・・・何故だ!」 「CBの壊滅は、計画の中に入っていたからね。本来なら、君らは四年前に滅んでいたんだ」 「そんな・・・・・」 イオリア。 ねぇ、イオリア。 本当ですか? 僕は、イオリアの計画のために生み出されたイオリアの申し子だ。 それなのに。 イオリア。 もう何百年も前にいなくなったマスターに向かって、ティエリアは語りかける。 「そんなはずはない!」 ティエリアは首を振った。 「僕たちは、イオリア・シュヘンベルグに託された。ガンダムも、GNドライブも、トランザムシステムも!」 「イオリアにガンダムを託された僕は思う。君たちは間違っていると!」 ぎゅっと、拳を握り締める。 「そうさ、僕は自分の信じた道を進む!愚かだといわれようが、がむしゃらなまでに!」 毅然と孤高に美しく輝くティエリアがそこにいた。 「あははははは。君は、思った以上に人間に感化されているんだね。あの男に心を許しすぎた・・・・ロックオン・ストラトスに」 「く・・・・」 ロックオン。 ロックオン。 僕は、人間だ。そうだ、ロックオンが僕を愛してくれて人間になれた。 イノベーターにならずに済んだ。 ロックオン・・・・。 「計画よりも家族のあだ討ちを遂行した、愚かな人間に」 リボンズが唇をニィと吊り上げた。 ぼっ。 全身が沸騰するかと思った。体から、灼熱の炎が出そうだ。 「貴様あああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」 ガーターベルトから銃を引き抜き、リボンズに向けて放とうとすると、ヒリング・ケアと名乗るイノベーターに邪魔された。そのまま、窓を飛び割って、地面に着地する。高い身体能力をもつティエリアであったが、4階という高さのせいもあり、またはきなれていないピンヒールをはいていることもあって、右足を捻った。 そのまま、構わずに駆け出す。 ロックオンのことを侮辱された。許せるものか。誰であろうとも、ロックオンのことを悪く言う者は許しはしない。 たったったった。 走る。 駐車場に、刹那の姿はなかった。 警報が鳴り響いた。 「くそ、ばれたのか!」 落ち合う場所は決めている。 その場所に向かって走ろうと、方向を変えた時だった。 「逃がさないよ」 「!?」 突然の声に、瞠目する。 今まで、周囲に誰の気配もなかったというのに、いつの間にか背後にリジェネ・レジェッタが立っていた。 「く・・・・」 銃を向けられ、ティエリアもガーターベルトから銃を抜き、逡巡もなしに撃った。それを、リジェネは余裕の表情でよける。 リジェネから撃たれた銃弾は、ティエリアの銃にあたり、手から銃が弾き飛ぶ。 「鳥篭の中に入り込んできたカナリアを、わざわざ野に放つと思ってるの?」 「君たちの思い通りになど、なるものか!」 ざっと、ピンヒールを脱いで、素足になる。そのまま、姿勢を落として、鋭い蹴りをリジェネに向かって放つ。、 リジェネは、その蹴りを、手で受け止めた。 「くそ!」 「なかなか威力があるね。でも、残念」 ぐいっと足首をとられ、バランスを崩す。そのまま、地面に押し倒された。 「君は、イノベーターだ。僕らの仲間だ」 「違う!僕は人だ!!」 「聞き分けのない子だね」 鋭い蹴りを放つが、足で押さえ込まれた。 「く・・・・」 「随分魅力的な格好だ・・・とても色っぽい。そそられるよ」 キッと、ティエリアはリジェネを睨んだ。 「君は僕のものだ」 リジェネは、クロロホルムを染み込ませたハンカチを取り出して、ティエリアの口を塞いだ。 「ううう・・・・」 息を止めるが、限界がある。 そのまま、クロロホルムをかいでしまう。 ああ。 ロックオン・・・・刹那・・・・・。 僕を、守って。 何があっても、戻るから。 刹那と約束したんだ。 「せつ、な・・・・」 ティエリアの意識は、闇に滑り落ちていった。 NEXT |