ナイトクロス「行方不明のお姫様」







「ティエリア・・・・・何処だ!?」
落ち合うと決めていた時計台に、ティエリアの姿はない。
あの館に戻るのは危険すぎると分かっている。
何時間待っても、ティエリアは姿を現さなかった。
やがて朝がくる。

「ティエリア・・・・俺が、守るから」
ぎゅっと、ティエリアから渡されたナイトクロスを握り締める。
刹那は、停めてあった車を運転し、あの館に向かう。きっと、ティエリアはそこにいるはずだ。敵の手に囚われているのかもしれない。
だが、必ず助け出してみせる。

通信が入る。
ミス・スメラギからだった。
ティエリアが行方不明であることを告げると、ミス・スメラギは一旦ティエリアを放置して、トレミーに帰還せよと命令をしてきた。
「俺は、ティエリアを守ると決めたんだ。悪いが、その命令には従えない」
「ちょっと、刹那!?」
一方的に通信を切る。
そのまま、車を乱暴に運転し、パーティー会場であった館に向かう。
会場はもうパーティーが終わったせいもあり、人の気配がなかった。
あまりにも無防備すぎる。
「刹那!」
「ライル!!」
館の駐車場で、念のためにと派遣されたライルと落ち合った。
「ティエリアが、行方不明なんだって!?」
「ああ。多分、この館のどこかに囚われている」
「助け出そう」
「勿論だ」
二人で頷きあう。銃はちゃんと所持した。

「ティエリア。俺の命にかえても、守ってみせるから」
「どうする。離れて行動するか?」
「いや、一緒に行動しよう。万が一の時もある」
「分かった」
ジャキっと、銃を構える。

館の中は瀟洒な作りになっていて、螺旋階段が目立つ。
駆け上がり、扉を次々と開けていく。

「いない」
「こっちにもいない」
「おかしい。誰もいない・・・・」
人影が、全く見当たらなかった。

そのまま、館の室内全てを調べ上げたが、ティエリアの姿を見つけることはできなかった。


クスクス。
天井から、無邪気な笑い声が降ってきた。
「誰だ!?」
「ここよ」
「お前は・・・?」
「私はヒリング・ケア。イノベーターよ」
螺旋階段をゆっくりおりてくる。天使のような衣装を着ていた。
どこか、ティエリアに似た人形のような精巧な作りの美貌が、無邪気に微笑む。
「私、ティエリアが嫌い。だって、リボンズが夢中になるんですもの。リボンズは私のものよ」
「ティエリアの居場所を知っているのか!?」
ライルが銃をヒリングに向けた。
「あーあ。本当に、やんなっちゃう。どうして、私が野蛮な人間の相手なんてしなきゃいけないのかしら。でも、仕方ないわね」
独り言を呟くと、ヒリングは銃を向けられているにも関わらず、螺旋階段をゆっくり降りてくると、柔らかそうなソファに座った。

「私、リジェネも嫌い。リボンズったら、ティエリアとリジェネばかり贔屓するの。こんなに私がリボンズのこと愛しているのに・・・・リジェネはまだ分かるけど、裏切り者のティエリアなんかの何処がいいのかしら?ねぇ、あなたたちもそう思わない?」
ヒリングは、テーブルの上に置かれてあったワイングラスに紅いワインを注ぐ。
「ティエリアは何処だ!?」
刹那が、銃口をヒリングに向けた。
「うふふふふ。リジェネが嫌いだから、私はリジェネの計画をむちゃくちゃにしてあげるって決めたの。あなたたちのお姫様の居場所、教えてあげる。でも、お姫様が無事であるっていう保障はどこにもないわよ?」
「なんだと!?」
ライルが、威嚇するように天井に向けて銃を発砲する。
「なんて野蛮なの。これだから、人間は嫌い・・・・」
「ライル、落ち着け」
「だが、刹那」
「あなた、刹那っていうの。ふうん。いかにも、ティエリアが好みそうなタイプね。ああ、そっちのあなた・・・ロックオン・ストラトスだっけ。あなたも、ティエリアが好みそうなタイプ・・・・」
うっとりと、ヒリングが呟く。ワイグラスの中身をまわして、ゆっくりと飲み干していく。また、コポポポと、ワインが注がれる。

「ティエリアは、地下に居るわ。一番右端の部屋の本棚を調べてごらんなさい。地下に降りる隠し階段があるから」
「どうして、それを俺たちに教える?」
「だって、言ったでしょう?私、リジェネが嫌いなの。ティエリアも。このまま、ティエリアがイノベーターになってリボンズの傍にいるようになると考えただけで虫唾が走るわ。リジェネだけでも大嫌いなのに、リボンズが夢中になるイノベーターが増えるなんて、ライバルが増えるようなものじゃない。だから、私はリジェネの計画の邪魔をするの。ざまぁないわね、リジェネ」
「一緒に来てもらおうか」
ライルが銃口をもってヒリングを脅すが、ヒリングは怯みもしない。
「いいの?時間がたてばたつほど、あなたたちのお姫様は、危うくなるのよ。リジェネの計画を教えてあげる・・・・籠の中のカナリア。地下の特別カプセルの中に入れて、ティエリアの今までの記憶を抹消する気なのよ、あの子。そして、イノベーターとしての記憶を植えて、同胞として迎えるつもりなの。カプセルの使用はリボンズに全て権限があるけど、リボンズったら喜んで許しをあげたのよ。許せない・・・・」

かわいい顔が、無邪気な殺意に歪む。
ガシャンと、ワイングラスが床に叩きつけられ、無残に砕け散った。




NEXT