ヒリングのことは放置した。 時間が惜しい。 一刻も早くティエリアを助け出さねばならない。刹那とライルは走り、ヒリングが告げた部屋の本棚に隠し扉を見つけ、そこから地下に降りる階段を見つける。 そのまま、かけおりる。 地下は、いくつもの扉があった。 それを順番にあけていく。どの部屋も、階上と同じようなつくりの、ベッドルームばかりだった。銃を向けながら、慎重に扉を開けていくと、ある部屋のベッドの上でティエリアが倒れていた。 「ティエリア!」 「ティエリア!!」 刹那とライルが駆け寄る。 揺さぶると、ゆっくりと石榴の瞳が開く。 「刹那?ライル・・・・どうしてここに?」 女装姿ではなく、ヒリングと同じような天使のような衣服を着せられていた。 「僕は一体・・・・う・・・・」 頭を押さえるティエリアに、刹那がティエリアを助け起こす。 「大丈夫か?」 「ああ・・・・カプセルに入れられて・・・・それから・・・・ダメだ、思い出せない」 ティエリアの髪は、今までカプセルに入れられていたのか、濡れていた。 ゆっくりと、ティエリアが立ち上がる。 足取りはおぼつかなかったが、それでもライルと刹那に支えられてなんとか立っている状態だった。 「無理はするな」 「ああ、刹那。ありがとう、助けにきてくれたんだね。僕を守るって・・・・ナイトクロスに誓ったように」 「ああ。俺は約束は守る」 ティエリアの首に、刹那はナイトクロスのペンダントをさせる。 「僕は・・・・確か、リジェネ・レジェッタという男に攫われて・・・・それから・・・・・だめだ、思い出せない」 「無理すんな」 ライルが、ティエリアを抱き上げた。 「すまない、ライル。迷惑をかけてばかりで・・・・」 「いいってことよ。ティエリアが無事なら、それだけで十分だ」 「僕は強くなりたい」 「いいから」 刹那が、ティエリアの頭を撫でる。 「刹那・・・・」 サラサラの紫紺の髪。 「お前が無事でよかった」 刹那は心から安堵した。ライルも同じように安堵している。だが、まだ緊張状態だ。いつ、敵が現れてティエリアを拉致しようとするかは分からない。 ヒリングは誰もいないと言ったが、その言葉をそのまま信用などできない。 「とにかく、トレミーに戻ろう」 ティエリアを抱きかかえたライルが、細い肢体を抱く腕にぎゅっと力を込める。 「ああ。ミス・スメラギとも連絡をとらなければ」 刹那は拳銃をしまった。 「もう大丈夫だからな、ティエリア」 「すまない、ライル、刹那」 「いいってことよ。お姫様」 「むう。僕はお姫様じゃない。どっちかっていうと王子様だ!」 はいはい。 いつものおもしろおかしいティエリアだ。 良かった。 無事だ。 記憶を抹消させられた気配もない。 そのまま、部屋を出ようとしたとき、刹那が拳銃を取り出した。 「お前は誰だ?」 銃口が、ティエリアに向かってあてられる。 「ちょ、刹那、何してるんだ!」 「刹那!」 ティエリアが悲痛な叫びをあげる。 「お前は誰だ。本当のティエリアは何処にいる?」 「刹那。僕がティエリアだよ。どうして拳銃なんて僕に向けるの?」 「そうだぜ、刹那。ティエリアが怯えてるじゃないか。拳銃しまえよ」 ライルの言葉に、けれどティエリアは拳銃をジャキリと、今度こそティエリアの額に向けた。 「本物のティエリアはどこだ!?お前はティエリアじゃない!」 NEXT |