「刹那。僕を疑っているの?」 ティエリアは怯えて震えだした。 愛しい刹那に銃を向けられて、涙ぐんでいる。 「おい、刹那、いい加減にしやがれ!」 ライルが怒鳴り声をあげて、ティエリアを地面に下ろして、背後に匿った。 「刹那!」 ティエリアの叫び声。 刹那は、数度目を瞬かせた。 ピジョン・ブラッドのルビーの瞳が収縮する。 刹那は、拳銃を向けたまま、ティエリアからナイトクロスのペンダントを奪う。 「刹那、どうして!?」 ついには、ティエリアは泣き出してしまった。 大粒の涙が石榴の瞳から零れ落ちる。 ライルが、刹那の拳銃を掴む。 「いい加減にしろ、刹那!どうかしてるぜ!」 「刹那、僕を信じて」 「違う。お前は、ティエリアじゃない」 断言する。 ライルが、ついきには切れそうになった時だった。 「あははははは!あーっはっはっはっは!!!」 ティエリアの喉から、ティエリアの声より高い笑い声が響いた。 「ティエリア?」 ライルが、ゆっくりと振り返る。 「参ったね。まさか、この僕とティエリアの区別がつく人間がこの世にいるなんて。ティエリアの記憶を完全に再現したのに」 「ライル、離れろ。そいつはティエリアじゃない」 「マジかよ!」 ライルが、拳銃を構えて、後じさる。 まだ、信じられない。 目の前のティエリアは、どう見てもティエリアに見える。 「クスクスクス。刹那、だっけ。君がティエリアの今の王子様かぁ。ロックオン・ストラトスの代わりにティエリアを手にいれて、満足だった?」 「黙れ」 銃口が、ティエリア・・・・いや、ティエリアに完全に化けたリジェネ・レジェッタに向けられる。 「まさか、見破られるなんてね。しかも、人間如きに。記憶の再現までしたのに。同じ容姿として作られた僕とティエリアはシンメトリーを描いている。双子よりもそっくりだ。まるで同一人物のように」 「お前が・・・リジェネ・レジェッタか」 「ご名答」 リジェネが肩を竦めた。 「言え。ティエリアは何処だ」 「あーあ。せっかく、戻ってきたと、手に入れたと思ったのに。隙をついて君ら二人を殺せば計画は完璧だったのにな。本当に残念だよ」 「ティエリアは何処だ?」 リジェネは、残酷な笑みを無邪気に浮かべた。 「ついておいで。ティエリアに、会わせてあげる」 そのまま、ライル、刹那に銃口をつきつけられ、リジェネは降参のポーズをとって歩きだす。更に地下へと続く螺旋階段を降りる。 「ティエリア。王子様が、助けにきてくれたよ」 コポポポポ・・・・・・。 幾つも並んだカプセルには、人工羊水が満たされていた。 その中の中央にある一際大きなカプセルの中に、ティエリアは全裸で胎児のように丸くなっていた。 「ティエリア!」 「ティエリア・・・・」 「聞こえる、ティエリア?目を覚ましなさい」 リジェネが目を金色に輝かせると、金色の羊水の中に漂っていたティエリアがピクリと動いた。 そのまま、目を開ける。 金色に輝く瞳。 リジェネとティエリアは、まるで同一人物のようだ。 「おはよう、ティエリア」 リジェネがティエリアに話しかけると、ティエリアは首を振ってカプセルを叩いた。 (ここから出して!) 唇が、そう動いていた。 (僕は君の仲間になんてならない。ここから出して!嫌だ、僕は人間なんだ!) 「本当に残念。もう少しでティエリアの記憶を消去して、同胞として迎え入れることができたのに」 リジェネはがっくりと肩を落とした。 (ここから出して!!) ティエリアは、カプセルを内側からドンドンと叩いて、泣いていた。 「ティエリアを解放しろ」 刹那のもった銃口が、リジェネのこめかみにあてられる。 「人間ていうのは、せっかちだねぇ。感動の対面もなしか・・・・まぁ、今回は僕の負けかな」 そのまま、大きなカプセルの隣にあるボタンに複雑に暗号を入力する。 「なぁ、刹那。どうして、こいつがティエリアじゃないって分かったんだ?俺には見分けがつかねぇ」 「俺とティエリアは比翼の鳥だから。魂の双子だ。どんなに同じ姿形をしていても、魂が違う。魂が違えば、分かる」 「魂で分かる・・・・俺には見分けがつかない」 「俺も最初は分からなかった。でも、ティエリアの声が聞こえた気がしたんだ。”助けて”と」 ライルが、ため息を漏らす。 「本当に、刹那とティエリアは・・・愛より深く、魂で繋がっているんだな」 刹那は銃口をリジェネに向けたまま、カプセルの中のティエリアを見つめる。 ティエリアは、刹那とライルの姿に気づいて、カプセルにはりついた。 (刹那、ライル!助けて!) 「待ってろ。今、助けるから」 刹那は、ティエリアを安心させるようにわざとゆっくり言葉を口にした。唇の形で、言葉が伝わるように。 NEXT |