カナリアU「天使のカナリア」







デパートの駐車場に車を置いて、町に繰り出す。

「あ、あれも食べたい」
出ていたアイスの店を、ティエリアが指差す。

「おいおい、そんなに食って大丈夫か?」
「平気平気。えへへへ〜」
さっき、同じようにホットドックと、ハンバーガーを食べたばかりだ。
カナリアのティエリアは、ティエリアと違って食欲が旺盛のようである。健康的でよいことではあるが、食べすぎは体によくない。

ティエリアを心配そうに見つめるロックオンの手をとって、ティエリアはかけだす。

「いらっしゃいませ・・・・」
店員は、愛らしいかっこうの絶世の美少女の姿に見惚れてしまっていた。
「ど、ど、どれになさいますか?」
声が上ずっている。

「カナリア・・・んー・・・店員さんのオススメはどれ?」
「は、本日は晴天であります!」
「店員さーん?」
首をかしげて、愛らしく覗き込んでくるティエリアを、ロックオンが止めた。

「ロックオン?どうしたの?」
店員は顔を真っ赤にして湯気を出していた。
ティエリアは、自分の容姿を知っていて、時折こういった行動を無意識にとるが、カナリアはその傾向が強い。
ふわふわしたゴシックドレスの裾が、風で翻る。
押さえることもしないティエリアは、見事に女性ものの下着を見せてしまう。

「ぐほ!」
アイスの店員は、鼻血を出してしまった。
「す、すみません・・・・」
同じように、ティエリアの下着を見てしまった男たちは鼻血を出していた。
だって、ふわふわのゴシックドレスは、風に翻ってもいいようなデザインになっていて、脇にはスリットもはいっている。きっと、見ても大丈夫な女性用の下着をカバーするいわゆる、下着でない下着のような衣服を着ているのだと思っていたのに、際どいラインのワインレッドの大人の女性の下着をつけていた。

氷の花のような美貌は、ティエリアであるときはその芯がしっかりしていて、男性を基盤としてできあがるものであるのだから、美しくても、ここまで儚く可愛くはない。
カナリアであるティエリアは、芯というものをもたないため、とてもふわふわしていて、天使のようだった。

そう、本物の天使のように無垢で、幼い。

このまま、ふわふわとただよって、雪のように溶けていきそうな気がして、ロックオンはティエリアを自分のコートで包み込んだ。

「ロックオン?」
「あー、その服可愛いくてすっげー似合うけど・・・まいったなあ」
ロックオンは嫉妬していた。カナリアを見つめる視線に。
ティエリアのときなら、ここまで嫉妬はでてこない。だって、ティエリアはロックオンだけを見つめてくれるから。どんなに視線が注がれようが、声をかけられようが、ほとんど無視に近い。
でも、カナリアは視線が注がれるとそっちのほうをむいてしまうし、声をかけられたらほいほいとついていってしまう。

本当に・・・カナリアのように綺麗に歌うこの天使は、無垢だ。
大人の欲望というものを、分かっていない。

自分に注がれる視線が、羨望だけでなく、あきらかな男の下心を含んだものであっても、平気でついていこうとする。

ロックオンが隣にいないと、何処にいってしまうかも分からない。

「とりあえあず、そのメロンアイスください」
ティエリアは、ロックオンの隣で、無邪気に笑う。
「はい、ありがとうございます・・・・」
店員が、アイスカップにやけに大盛りなメロンアイスを渡してくれた。
「あ、スプーンもう一つください」
「はい、どうぞ」
店員はなれたのか、見目のいいカップルを羨ましそうに見ていた。


公園のところまでくると、ベンチに座る。
ロックオンは、ふうと一息つく。
さっきのアイスの店からこの公園にくるまで、すでに10人の男に声をかけられ、そのどれにも返事をしてついていきそうになっていた。
隣で、ロックオンが殺気を漲らせることで、男たちは逃げていった。

「はい、あーん」
「ん?」
「ロックオンも食べて〜」
「はいよ」
そのまま、メロンアイスはロックオンの口にはいると、甘い味を残して溶けていく。
「なぁ、ティエリア」
「ん、なーに?」
「いいか、俺以外の男にも女にも、声かけられても勝手についていかないこと。あと、声かけてくる相手は無視しとけ」
「分かった。私、ロックオンのいうとおりにする」
「いい子だ」
頭を撫でられるその感触は、カナリアは好きだった。

アイスを食べ終わる。時計を見ると、昼を過ぎていた。

「映画館いこ?」

天使のカナリアは、ゴシックドレスを風に翻らせて、ロックオンの手をとる。
ロックオンは、立ち上がる。
同じように、綺麗な笑顔で。

なんだろう、心がとても癒されていく。そして、ドキドキする。こんな気分になるのは、ロックオンも久しぶりだった。


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