カナリアは、庭に咲いた忘れな草の花を摘んでいく。 「これ、好き」 ちゃんと言葉を話せるのに、時折片言になる。 それでも、ちゃんと全部意味はロックオンに通じる。 ティエリアが好きだった忘れな草が、同じようにカナリアも好きなのだ。 「空のように、水色。カナリアの心も、きっとこんな色」 小さすぎる花をいくつか摘んでいく。 ロックオンが、丁寧にまとめて小さな一つの花束にしてくれた。 ティエリアとロックオンが大事にしている、忘れな草の小さな花畑。 「あ・・・・ごめん、なさい」 それを思い出して、カナリアは泣きだした。 「どうした?」 「ティエリアとあなたが・・・とても大切にしているのに・・・摘み取ってしまった。こんなにも」 小さな花束をロックオンに見せる。 ロックオンはエメラルドの瞳を優しく輝かせて、カナリアの頭を撫でる。 「いいさ、それくらい。いくらでも、新しく植えれるしな。何も、全部摘み取ったわけじゃないだろ?」 「うん・・・・ごめんなさい、忘れな草・・・・ねぇ、ロックオン」 「どうした?」 「カナリアも、忘れな草が好き」 「そうか。ティエリアも好きなんだ」 「かわいい。天使の花束みたい」 小さな花束を手に、カナリアは青空を見上げる。 そして、カナリアのような綺麗な声で歌いだす。 ロックオンは、その歌声の綺麗さに感嘆する。 ティエリアの歌声も綺麗であるが、カナリアの歌声はそれをも凌駕する、天性の歌姫だ。 「ほら、カナリア」 「あ」 ロックオンが、家に戻ったかとおもうと、ティエリアのお気に入りである水色の忘れな草の髪飾りをとってきてくれて、それを髪につけてくれたのだ。 「ありがとう、ロックオン。大好き!」 抱きつかれて、そのまま忘れな草の花畑に二人して、静かに寝転がった。 カナリアは青空を見上げて、ぞくっとするほどに綺麗な歌声で歌う。 このまま、愛されたいという欲望が、心のどこかにカナリアにはあった。 それが哀しくて、涙を零す。 「さっきからどうして、そんなに泣いてるんだ?」 いつもより余計に涙を零すカナリアに、ロックオンも心配になった。 「ううん、なんでもないの」 カナリアは、零れる涙をふき取って、笑う。 そして、また歌う。 カナリアは、こんなにも幸せ。ロックオンに愛されている。ロックオンにまた会えて、カナリアはとても幸せ。誰よりも幸せ・・・・ねぇ、だから、逃げないで、ティエリア。あなたのことをこんなに心配して、愛してくれるロックオンがあなたにはいる。 だから、ね? カナリアは唄を歌いながら、心の奥で、胎児のように丸くなっているティエリアに手を伸ばす。 (いや・・・ロックオンに知られてしまった・・・ヴェーダもいない・・・いや・・・) (大丈夫。カナリアが、全部またもっていくから。ね?) (カナリア・・・・君はどうして、そこまで強くいられるんだ?) (だって、ロックオンに愛されているから) 誰よりも綺麗な、天使よりも綺麗な声で歌いながら、笑顔を零す。 本当に、眩しい。 星よりも美しく、太陽よりも眩しい笑顔。 (君は・・・・幸せなのか?こんなにも・・・辛い記憶ばかり、もっていて) (幸せだよ?だって、カナリア、ロックオンに愛して貰えたから!) カナリアは心の中で、ティエリアの手をとって、立ち上がらせる。 ティエリアにもカナリアにも、翼が生えていた。ティエリアには白く輝く六枚の翼、カナリアには、片翼だけの金色の翼・・・・もう一つは、人間の暴力でもぎ取られてしまった。 (君は、何故・・・・こうまで・・・無垢でいられるんだ!) カナリアの記憶にふれたティエリアが、カナリアのかわりに涙を零した。 カナリアは、記憶のことに関して、ロックオンの前で涙を零したのは昨日の夜だけだ。カナリアの心に触れる・・・忘れな草のような透明な水色の心は、けれど、修復できなくらいズタズタに切り裂かれていた。それが、本当のカナリアの心。カナリアの心の奥にある、本当のカナリアは、翼をもがれ、鎖につながれ、籠の中に入れられていた。それでも笑顔を忘れることなく、綺麗な声で歌っている。 (君、は) ともすれば、すぐにでも消えてしまいそうな存在に、ティエリアは自分がいかに支えられているのか分かって、涙を零す。 (カナリア、ごめん。カナリア・・・ごめんなさい) ティエリアは、カナリアを抱きしめた。 カナリアの首には、カナリアの羽のペンダントがあった。 相手を、綺麗な声で呼んでくれる・・・・ティエリアと、カナリアは何度も綺麗な声で呼んでくれた。 (愛してるよ、ティエリア。ロックオン。カナリアのこと、忘れないで・・・・) 「愛してるよ、ロックオン。ティエリア。カナリアのこと、忘れないで・・・・」 歌声が、突然途切れた。 そのまま、カナリアは意識をなくした。 NEXT |