「ここは・・・・」 ティエリアが目をあけると、そこはロックオンの生家だった。 「大丈夫か、カナリア?」 「ロックオン・・・・」 言葉の使い方、視線の使い方・・・全てが、ロックオンの知るティエリアのものだった。 「ティエリア?戻ってきたのか?」 「はい。・・・・ご心配をおかけしてしまってすみません」 「カナリアは?」 「・・・・・・・・・・カナリア、は。とても綺麗な声で歌って・・・・でも、本当はボロボロで・・・自分を、形作ることさえ、困難なほどに、ボロボロで・・・・それなのに、また、僕を庇って、傷ついて・・・・カナリアは・・・・」 ロックオンは、ティエリアを抱きしめた。 「カナリア・・・・・」 涙が、零れた。 いくらティエリアを守るためだからといって、献身的すぎる。 そう、ロックオンの前にいたカナリアは、ボロボロになりすぎた自分を隠した偽りのカナリア。心配されないように、大丈夫だからと綺麗な笑顔で・・・・誰よりも一番辛いのは、一番辛い記憶をもっているカナリアだったのに。 どうして、気づいてやれなかったのだろう。 もっと、どうして愛していると、強くいってやらなかったんだろう。 ティエリアのことばかり気にして、カナリア、という存在を二の次にしていた。 あんなにも、真っ白で無垢なカナリアは、そう、もう存在できないほどにボロボロだったのだ。 「私が、見たカナリアの本当の姿は・・・・背中の黄金の翼を片方、人間の暴力でもぎ取られて、鎖につながれて動けない・・・・籠の中の、カナリアでした。首に、カナリアの羽を集めたペンダントをしていました。そう、このペンダントを」 ティエリアが、声もなく自分の首にぶらさがっているペンダントをつまみあげる。 「私は・・・・カナリアを傷つけた」 「ティエリア」 「私は・・・・生きます。カナリアのためにも、強く、生きます」 「俺は、カナリアもティエリアも、両方愛してるよ」 抱きしめられる。 「カナリア・・・愛しているから、私も、君を」 もう、ティエリアの心の中に、カナリアはいない。 籠と鎖とペンダントだけを残して、完全に消えてしまった。 いくら今愛しているといっても、届かないけれど、愛してると、言葉にしたかった。 カナリア。 籠の中のカナリア。 綺麗な声で歌う天使。 「カナリア・・・・本当に、ふわふわしてて天使みたいだった。もっと、愛してやれば良かった」 「カナリアは言っていました。ロックオンに愛されてるから、幸せだと」 「そうか・・・・」 カナリアは言っていた。2週間はあるからと。 だから、ロックオンのその言葉を鵜呑みにして、カナリアへの愛は2週間かけてじっくりと注ぐつもりだったのだ。実際は、わずか四日にも満たなかったけれど。 それでも、カナリアは幸せだった。 またロックオンに会うことができ、言葉をかわすことができ、愛してもらえたから。 ロックオンにキスまでしてもらった。 カナリアは、誰よりも深く傷ついていながら、それを隠して天使のような無垢な笑顔で煌いていた。 ティエリアの心の中に、カナリアはもういない。 消えてしまったんだそうだ。 前は、消えたが、確かにカナリアは消えてもティエリアの中にいた。今度は、本当にいなくなってしまった。ティエリアの中から。 籠と、鎖と、カナリアの羽を集めたペンダントを残したまま、忽然と。そして、それも次の瞬間には粉々に砕け散ってしまった。 それを、どう説明すればいいのか、ティエリアにもよく分からなかった。 まるで、最初からいなかったかのように、消えてしまったのだ。 本当なら、その痕跡くらい、残していくものなのに。 カナリアがどこにいったのか、ティエリアにも分からなかった。消えた、のとは少し違う。溶けた・・・融合とも、違う。 「愛しているから、カナリア、ティエリア」 ロックオンは、ティエリアを抱きしめ続けた。 ティエリアも、ロックオンを抱きしめ続けた。 別れも言わずに、消えてしまったカナリア。 君は今、どこにいるんだろう? どこに? NEXT |