世界が終わっても「桜が舞う季節」







「ただいま・・・・・本当に、ただいま・・・・」
「ロックオン?」
私は、呆然と呟いた。
狂おしいくらいにかき抱かれて、目の前にある姿が幻影ではないのだと告げていた。

「どう、して・・・?」
あなたは、死んだ、はず。
私を庇って利き目を失い、そのせいで死んでしまったはず。半ば、私があなたを殺した。

ねぇ、桜の精霊さん。
これが幻覚でもいいから、私も連れて行って。私も攫っていって。そして、桜のように散っていきたい。
魂の欠片も残さないくらいに、粉々に。
もう、泣きたくないの・・・何百回泣いただろうか・・・もう、泣きたくない。

「リジェネ・レジェッタって、知ってる?」
「リジェネが?」
目の前の人物が、ライルではないのかと思えてきた。
だって、あなたと姿かたち、声もおんなじなんだもの。
「ライル、悪ふざけは・・・・」
「ライル、元気にしてるかなぁ」
目の前のあなたは、懐かしそうに桜を仰ぎ見た。

「リジェネ・レジェッタって子が、俺を助けてくれたんだ。俺はボロボロで・・・なんでも、一度、俺は死んだらしい。その死体を回収して、宇宙で凍って漂ってた俺の死体を回収して、再生治療を施した。最先端医療技術で、宇宙で脳死状態で漂ってた俺は生き返ったけれど、でもずっと意識を回復することなく何年も眠り続けてて」
私は、涙を零しながら、彼にしがみつき、言葉の一つも聞き漏らすまいと必死になっていた。

「それで、ずっと特殊な治療カプセルに入れられてて・・・・目覚めたら、リジェネって子がいた。俺が死んだら
”世界が終わる子がいる”って。記憶が全くない俺と、生命器官は維持できたものの、指ひとつ動かすことのできない俺を励まして、俺はずっとリハビリを専門の病院で繰り返して・・・・辛かった。でも、リジェネって子がたまに来てくれるのが嬉しくて、頑張ったんだ。どこかで、そう、リジェネって子がとても愛しい存在に思えて、ある日告白したんだ。そしたら、リジェネは首を振って、いつかあなたに会わせる人がいるって」
「桜の精霊さん・・・・このまま、連れて行って」
ボロボロ涙を零す私を、目の前の人物は、優しく頭を何度も撫でてくれた。

「桜の並木通り、綺麗に残ってたなぁ。今満開だ」
「そうですね・・・・精霊さん」
「精霊さん?」
「だって、そうでしょう?あなたは、桜の精霊さん。私の一番愛しい人の姿になって、私を攫いにきたのでしょう?攫っていってください。魂まで、どうか・・・・」

「ある日・・・・本当に突然ある日、少しづつなかったはずの記憶が戻ってきた。でも、大切な何かにかけていて」
「大切な、何か?」
「そう。とても誰よりも、愛しくて・・・・リジェネって子を見ると、いつも心臓がドキドキして・・・そして、リジェネにある日、ティエリア!って叫んだんだ。そしたら、リジェネは小悪魔みたいに微笑んで、これでリボンズの企みの一つを覆せたって。俺はリジェネを抱きしめてた。そしたら、リジェネは、僕はティエリアじゃないって」
あなたは、スナイパーとして大切な手に、変わらず手袋をはめたままだった。
「リジェネって子、自分の細胞を俺に移植してくれたみたいで・・・普通なら車椅子の生活だったのに、俺はリハビリするごとに良くなっていって・・・・言語機能も回復して、でも、記憶にだけまだぽっかり穴があいていて。ティエリアっていう名前がとても大切なものなんだってわかったけど、それがどんな子か分からなくて・・・・なぜか、弟のライルのことは思い出すのに、ティエリアって子のことが思い出せなくて・・・・リジェネが、ある日パソコンの動画を見せてくれたんだ。そこには、リジェネそっくりの子がいて、リジェネと並んで立ってた。言い争いみたいなのをしてて、リジェネはでも楽しそうで・・・・俺の中で、世界が終わった」
「世界が、終わった?」

「閉ざされていた世界が終わって、新しく世界が始まった」

ザァァァァ。
続きの言葉が、風に消されて聞こえない。

「ねぇ。僕からのプレゼント。受け取ってくれる?」
いつの間にか、リジェネが僕の傍にきていた。
「君は、何をたくらんで・・・・」
「素直に、喜びなよ。僕だって、命かけてきたんだからさぁ」
いつものように、リジェネは神出鬼没だ。イノベイターで、唯一人間として生きることを決めたリジェネは、僕にとってはいわば兄弟なようなものか。でも、ニールとライルのような、関係でもないけれど。
天使と悪魔。本人が、そういっていた。

リジェネは、私が戦いが終わり、彼の意志を継ぎ終わって何もすることのなくなった私が、自殺するのではないかと危機感を抱いていたようで、何度もよく私の家に訪問してきた。
もう、昔のようないがみ合いもなくなっていた。
普通に家にあげて、一緒のベッドで眠った。
よく、彼の顔を見て「おはよう」と呟くのが、朝の日課になっていた。

リジェネがいることで、私は一人ではないのだと実感できた。
アレルヤやマリー、ライルとアニュー、それに刹那とマリナ姫もよく家にそれはそれは、頻繁に訪ねてきてくれた。私も、CBの集会の日には欠かさず顔を出している。
そこには、なぜかCBではないリジェネの姿まである。リボンズを裏切ってこちら側についたリジェネは、CBにとっては身内のような存在らしい。



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