世界が終わっても「悪魔が求める代償」







「僕は、言ったよねぇ。悪魔なんだって」
「知ってる」
「だから、さ。このプレゼントをあげるかわりに、代償を求めるよ」
「何を。魂とでも?そんなもの、いくらでもくれてやる」
「違う。君の不幸を・・・・」
「え?」

リジェネは、泣いていた。
ボロボロと。始めてみる、彼の涙だった。

「ロックオン!」
リジェネは、彼に抱きついた。
「ああ、ごめんな、リジェネ」
「お別れだよ。今まで、ありがとう。僕にまで、人の愛というものをくれてありがとう」
「全部、こっちの台詞だよ。俺の世界は一度終わったのに、また始まる」
「ティエリアを不幸にしたら、許さないんだから!ティエリア、愛しているよ」
慈悲深い瞳で、リジェネは唇にキスをしてきた。
もう、当たり前のような日常のコンタクトなので驚かないが、桜の精霊は何故消えないのだろう?僕は、もう桜の世界に閉じ込められたのかな?

ポロポロポロ。

涙で視界が歪んだ。

「精霊、さん。もう一度、やり直せますか?愛の、軌跡を。真っ白なキャンバスに、もう一度描くことはできますか?」
「やり直せる。愛の軌跡を、何度でも。真っ白なキャンバスに、描いていこう。もう、絶対に愛の途中放棄はしないから」
それは、私と彼だけの言葉。
愛の軌跡、愛の途中放棄、真っ白なキャンバスに愛を描く。
私が作った言葉。よく私が彼に語った言葉。知っているのは、彼しかいない。そう、あなたしか。

「迎えにくるのに、5年以上もかかちまった。ごめんな、ティエリア。愛しているよ」
「ロックオン・・・あああああ」
泣き叫んで抱きつくと、マフラーをとられた。上着も脱がされる。
「ほら、もう冬じゃないんだから。もちっと春らしいカッコしろ」

あれよあれよという間に、喪服のように黒一色だった服は脱がされ、かわりにリジェネが横からロックオンにピンクの服を差し出す。
「あ、これ・・・」
なんて、懐かしい。
ピンク色のカーディガン。
私は、昔に戻った気分でそれを着る。

「桜色が、似合ってる、ティエリアには」
チラチラと、桜が舞っていく。
リジェネが、涙を零しながら、私の手を握った。
「ねぇ。もう、君も幸せになってもいいんだよ?だから、僕は悪魔だから、魂のかわりに君の不幸を代償に求める」
「リジェネ・・・・」

私は、ボロボロ泣いた。
本当に、これでもかというほどに泣いた。
リジェネも一緒になって泣いた。二人で泣いた。
「僕は、ずっとティエリア、君を愛しているよ」
「ありがとう。私も、リジェネ、君を愛している」
初めて、私は素直にリジェネに人間としてあなたを愛しているのだと告げることができた。
不思議だね。
兄弟なのに、こんなにも時間がかかった。
同じDNAでできているのに。

「ほら、二人揃ってそんなに泣きなさんな。リジェネ、鼻水たれてるぞ。綺麗な顔が台無しだ」
「いいんだよ、鼻水くらい!いくらでもたれてやる!」
私は、リジェネに抱きしめられた。
そのまま、鼻水をくっつけられた。でも、愛しい。こんなにも愛しい。
私は、リジェネの頭を胸に抱くと、その額に口付ける。

「幸せに、なりなよ。二人で。僕も、無論間に入っていくけどね!」
リジェネは、泣きまくったあと、赤い目をはらして、トンと、私の背を押した。

自然と、足が進む。
「ティエリア?大丈夫か、ティエリア?」
私は、ロックオンの手袋をはいだ。
そこには、お揃いのペアリングが光っていた。
私のはエメラルドで、あなたのはガーネット。互いの瞳の色を宝石の形で交換しあったのだ。そう、結婚指輪のかわりでもあったっけ。

「だめ、そうです・・・・」
私は、へなへなとその場に蹲った。
そのまま、また泣いた。本当に、ダムが決壊したように、涙が止まらない。
次々とあふれてくる。

あなたは、苦笑して私に手を伸ばす。
「ロックオン・・・・ニール・・・愛して、います。世界が一度終わっても始まっても、終わった後もずっと愛しています・・・・きっとではなく、絶対に」
「何それ。すげー殺し文句」
あなたは、ゆっくりと私の体を抱き上げる。
懐かしい、その感触。
横抱きにされ、私はあなたの胸に顔を埋めて、また泣き出した。

「ちゃんと、いるから。好きなだけ泣けよ」
「はい。好きなだけ、泣きます・・・」

私は泣いた。
体中から水分がなくなるのではないかというくらいに、泣いて泣いて泣きまくった。

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