リジェネは、ルンルン気分で歩きだす。 私は、ロックオンに抱かれたまま、ロックオンが歩きだす。 「それでさぁ、僕の細胞移植したついでに、ナノマシン埋めたから。多分、老化しにくいよ」 「ってことは、イノベイターみたいに、不老なのか?」 ロックオンが、リジェネに聞き返す。 「さぁ、そこまでは分からないけど。君は、いわば実験材料でもあったからね。人間にイノベイターの細胞を移植して、それで拒否反応が出るか出ないか・・・他の検体には全て拒否反応が出たのになぜだろうね。君だけ、成功した。これも、奇跡ってやつかな?そもそも、いくら宇宙空間で凍りついて脳死状態だったっていっても、生き返ること自体無理があってね。体の構造の細胞のほとんどに手を加えたよ。はっきりいって、君を生き返らせたというけれど、君を作った、に近いね。 「まぁ、そうだろうな。神の倫理に逆らっている」 桜並木は、満開だった。 「うわぁ、流石にここまでくると幻想的だなぁ」 「綺麗!」 リジェネは、子供のようにはしゃいで駆け出した。 私は、まだグスグス泣いていた。 「大丈夫か、ティエリア?」 「大丈夫じゃありません・・・・」 また、大粒の涙が頬を伝う。 ロックオンが、その涙を舐めとった。 ボン! 私は、顔から火を吹きそうになっていた。 「おーおー、その顔みるの久しぶり!」 「私は!・・・・・・・キス、してください」 私は、ロックオンの首に手を回す。しっかりと、ぎゅっと、力をこめて。 このロックオンが、桜の精霊ではないことを確かめるように。 ロックオンは、最初は触れるだけのキスをしてきた。とても優しい。 次第に、キスは深くなり、舌が絡みあう。 「ふ・・・・・ンア」 真っ直ぐな桜の並木通りの向こう側で、リジェネが怒っていた。 「こーら、何こんな大通りでさかっとるか!家でやれ、家で!」 私は、自分からロックオンに深く唇を重ねた。 そうだ。 私は、言わなければならないことがある。 あなたに。 「私は・・・・あなたを失ってから、ライルと刹那と体の関係を持ちました。許してくれとはいいません。でも・・・どうか、嫌いにだけはならないでください」 あなたは、ゆっくりと私を地面に降ろすと、手を伸ばして桜の花を幾つか摘み取って、私の髪に飾ってくれた。 「お前を残していった俺が、責める権利はねぇよ」 「ですが・・・私は・・・・」 「ティエリアは。君をずっと愛していたよ。脳量子波って前に説明したでしょ。それで、相手が何を考えているのか分かるんだ。ティエリアの心はほとんど君が支配していて・・・・嫉妬するくらいに。刹那と愛し合ってたみたいだけど、それでも君のことを一番愛していた」 「リジェネ・・・・」 「ゼロからまた、描いていこう?愛の、軌跡を」 あなたは、優しく優しく、私の罪を許してくれた。 「俺のほうこそ、責められるべきだ。お前を残して、家族の仇討ちをとった」 「それは・・・・」 私は、言いよどむ。 確かに、あなたにおいていかれ、途方もない孤独を味わったけれど。 でも、愛しているあなたを責めることも憎むこともできない。 「私には、こんなにも愛しているあなたを、責めることも憎むこともできません。私は、私があるという条件にいつもあなたがいてくれたのです。あなたがいてくれたから「私」はこの世界に存在できた。人間になれた。歩きはじめることができた」 「ティエリア」 また、深く唇を重ねる。 「んあっ」 ちりっと、火傷するような感触。 耳に、痕を残された。 そのまま、耳を甘噛みされる。 「どう、しましょう・・・足が・・・」 足が、感触でガクガクとして立っていられなくなった。 また、ロックオンが、優しく私を抱き上げてくれた。 「だーからーさー。大通りでさかんないでよ。ティエリアの声、けっこうくるんだから。僕もティエリアが、一人の男として好きだってこと、忘れないでよね!」 ビシっと、叩きつけるように、リジェネは指をロックオンに向ける。 「これからが勝負だよ、ロックオン・ストラトス」 「あ、あ、あああ・・・」 私は、言葉をすることもできず、ロックオンが耳に息を吹きかけた感触だけで、かなりやばかった。 「だからー、キーーーー、人の話きけぇえええええええ!」 リジェネの叫び声は、桜の雪に消えていった。 NEXT |