「へぇ。ここがティエリアの家か」 広くも小さくもない一軒家に、皆あがりこむ。 「ブブー。僕とティエリアの家」 「え?」 「ほら、ここに、リジェネ・レジェッタって名前があるでしょ」 「もう、リジェネ、いつの間にこんなものを!」 私は焦って、自分の表札のしたに張られた「リジェネ・レジェッタ」という表札をはがそうとしたが、なかなか頑固にはりついていて離れなかった。 「じゃあ、俺はニール・ディランディって表札を作って、この下に張るか〜」 「いい度胸だね、君」 「リジェネもな」 バチバチバチ。 二人の間で、見えない火花が飛び散っていた。 「あーもう、君って人は。僕ばかり見つめていた頃のほうがかわいかったよ!」 「俺が見つめるのは、ティエリアだけだ」 「あ、あっ」 服の下に手を伸ばされて、思わず恥ずかしい声が出た。 「だーかーら、真昼間っからやめろー!」 リジェネがプンスカ怒って、ロックオンから私をとりあげた。 私は、リジェネの背中に匿われながら、今日の夜やばいかもしれないと、ちょっと考えていた。もう、体を誰にも許さなくなって1年くらいたつ。 愛しいロックオンに触られるだけで、腰が砕けそうになる。 顔が紅く染まっていくのを、自分でも感じていた。 「ロックオン・・・」 「ん?」 「あの、性急な体の関係はその・・・・私は女性よりからまた無性に戻ってきているので・・・・」 「ああ、かわいいからつい。別に、体の関係なんてなくてもいいさ」 「でも・・・・」 ロックオンは、私の頭を撫でると、昔のように何度も髪をすいてくれた。 「愛している」 その言葉を、もう一度聴きたいと、何万回願ったことだろう。 石榴色の瞳から、また涙がポロポロとあふれた。 「どうした?」 「あなたが、ここにいる。私の傍にいる・・・・私の傍に・・・ひっく、ひっく」 私の声は、嗚咽に変わっていた。 子供のように泣きじゃくる。 それをあやすように、ロックオンは、ずっと私の傍で静かに寄り添って、背中を撫でてくれた。 やがて私も落ち着いた。 「ほら、いっぱい泣いただろ。水分とらなきゃ」 アミノサプリのペットボトルを渡されて、私は飢えた喉を潤すために全て飲み干してしまった。そして、ロックオンが飲んでいるスポーツドリンクも奪って、飲んでしまう。 「お、調子でてきたか?」 「はい、少し」 「もう、CBのみんなには会ってるんだ」 「え、そうなのですか?」 「ああ。でも、静かに暮らしたいっていっておいたから、しばらくは様子見てくれると思う。邪魔されることはないぜ?」 「そうですか・・・・」 正直、心配していたのだ。 CBの集会でロックオンが、生きていたことが分かって祭りのようになり、私から遠ざかっていってしまうことが。 「でも、弟のライルだけは時折くるとおもう。これは、な。血を分けた兄弟だし」 「はい」 私は安堵する。 この、自分の家として買った、アイルランドの家で、ロックオンと新しく暮らしていくのだ。+リジェネもしばらくは暮らすようだけれど、リジェネは私の半身だもの。ロックオンにとってのライルのようなものだ。 「ほらほら、ご飯できたよー」 これまた似合わない割烹着を着たリジェネが、キッチンから出てくる。 「あ、それ・・・」 リジェネの髪には、忘れな草のブルートパーズの髪飾りがされてあった。 お気に入りだったけど、いつも世話になっているリジェネが気に入ったので、あげたんだっけ。 (返して欲しいなら、普通に口で言えばいでしょ。まったく) 脳量子波がきて、直接リジェネの言葉が脳に伝わった。 そのまま、リジェネは、髪飾りを外すと、私の髪につけてくれた。 「ティエリアはねぇ、忘れな草が大好きなんだよ」 庭には、リジェネのいったとおり、忘れな草を植えた小さな花畑が広がっている。 「俺も、好きだ。ついでにじゃがいもも好きだ」 「このじゃがいも男め」 メニューは、海鮮パスタとグリーンサラダ、カレーコロッケ。 リジェネの料理の腕は・・・悔しいけれど、とてもうまい。 まるで料理学校の先生のようだ。 「あーそうだ!」 「どうした?」 「リジェネ?」 リジェネが、ポンと手を叩いた。 「ロックオンにどうせ叶わないのなら、ロックオンとティエリアの養子になればいいんだ」 「ぶっ」 私は、海鮮パスタをふいてしまった。 「おお、それ名案だな」 「でしょー!僕って我ながら冴えてるー。ってことで、ティエリアは渡さないよ!」 「どうしてそうなるんだ!」 ロックオンが、呆れたように、リジェネを見る。 「だって、僕は悪魔だから」 リジェネとロックオンと一緒に夕食をとって、お風呂にそれぞれはいって、いざ寝よう・・・・として、ベッドが二つしかないことに気づく。 「リジェネ、隣で寝ろ」 ロックオンが、私が寝たベッドの中に、昔のように入ってくる。 「この獣め!ティエリアを襲う気だな!」 「いや、ないから!一緒に寝たいだけだから!」 ギャーギャー。 夜になっても、騒がしい。 私は、何週間ぶりかの笑顔を浮かべていた。 NEXT |