私はその夜、なかなか眠りにつくことができなかった。 何度も寝返りを打つ。 何度目を閉じても、眠って朝起きたら、全てが幻想で消えてしまっている気がして、怖くて怖くて眠れない。 私は、するりとベッドを抜け出し、バルコニーに出た。 下限の月が、銀色の涙を零している。 星もよく見える。綺麗な星空。 流れ落ちる星を見つけて、私は祈った。 「どうか、幻影でもいいから、ずっと続きますように」 なんて、儚い願いだろうか。 ニール、と未だに名前を呼ばず、ついくせでロックオンと呼んでしまう。ロックオンも、別に気にしたそぶりを見せずに、ニールと呼べと強制はしてこない。 「ニール・ディランディ」 「呼んだか?」 「わぁ!」 私は驚いて、心臓が飛び出るかと思った。 「どうした、眠れないのか?」 「はい。目覚めたら、全てが夢で全てが消え去っている気がして。怖くて、眠れません」 ロックオンの顔が近い。 そのまま、瞼にキスをされた。 「昼間泣きすぎたせいかな。目がはれてる」 「構いません・・・・」 バサリと、毛布でくるまれる。そのまま抱き寄せられて、私は安堵の吐息をゆっくりと漏らす。 「心配しなくても、夢のようにいなくなったりしないから」 「はい。信じています」 ロックオンに抱かれながら、私は彼と唇をあわせる。 目を閉じる。 懐かしい匂いがする。ロックオンは、なぜかいつもお日様の匂いがした。 「懐かしいな。甘い花の香りがする。リジェネからもするけど、お前のは百合みたいなの。リジェネは、薔薇みたいな香り・・・」 イノベイターとして作られているために、花の香りがするようにできているのだ、人工的に。 「眠れないなら、一緒に起きててやるから」 「いいえ。大丈夫みたいです」 彼に抱かれているうちに、ゆっくりと睡魔が襲ってくる。 私は、気づかない間に、全ての疲労が重なって、彼の手の中で意識を失っていた。 「ごめんな」 優しい声が聞こえる。 「愛しているから」 私は、深い眠りについてしまった。 NEXT |