「おはよう」 朝起きて、眠い目を擦ってあたりを見回すと、誰もいなかった。 昨日いたはずの、人の気配さえ残っていない。 私は。 私は、涙を零した。 桜の精霊が見せてくれた幻覚なのだろうか、全ては。 玄関の鍵をかけて、表札をみると、ティエリア・アーデという名前しかなかった。 そして、いつものように、喪服に身を包んで、花屋で白い百合と薔薇の花を購入する。 桜が満開な並木通りを歩く。 一人で、ゆっくりと。 私は、涙を零しながら、ゆっくりと歩く。 墓場には、昨日捧げた百合と薔薇の花束が、そのまま残っていた。 私は、その上から、同じ花束を捧げ、墓標に彫られていた名前をそっとなぞる。 「ロックオン・ストラトス」 ヒラヒラと、桜が舞い落ちる。 ねぇ、桜の精霊さん、どうして私も連れて行ってくれなかったの。 幻影でもいいから、私も連れて行ってと願ったのに。 あんな幻影だけ見せて終わりなんて、酷すぎるよ。 ねぇ・・・・。 ねぇ。 墓場に近い桜の木を見上げる。 「愛の軌跡を、もう一度描いていこうと、言ったばかりなのに・・・・」 涙がボロボロとあふれてきた。 「なぁ、泣くなよ」 ふいに、言葉をかけられる。 「桜の精霊さん。私も、今度こそ連れていってください」 その胸に飛び込む。 涙があふれて止まらない。 私はもう、彼なしでは生きていられないのだと、実感した。 「魂まで。欠片まで、連れて行って」 縋りつくように、首に、背中に手を回す。 「連れてくよ」 NEXT |