「手当ては・・・これ以上は無理だな。腫れ上がるのは仕方ない。なんの抵抗もなく何度も同じ場所を拳で殴られたんだ・・・すまない」 ティエリアは、救急セットを置いて、刹那を抱きしめた。 「君が、強いのだとばかり・・・そう、勝手に決め付けて、すまない」 ティエリアの腕の中で、刹那は悔しそうに顔を歪めたあと、ティエリアの胸に顔を埋めた。その閉じられたピジョン・ブラッドのルビーの瞳から、いくつかの涙が銀色の波となって、刹那の頬を伝う。 「君にばかり・・・罪を背負わせてすまない」 「いい。全部、俺が背負う」 ぎゅっと、ティエリアを抱きしめて離さない刹那に、ティエリアは涙が零れそうになった。 「神など、俺は信じない」 刹那は、強い瞳でティエリアを見つめる。 「僕も信じない」 神など、この世界にいるものか。 いるのなら、なぜ愛し合う二人を裂く? なぜ人を不幸にする? 祈っても祈っても、願っても願っても、何もかなえてはくれない。 残酷な結末しか与えてくれない。 ティエリアは、ポンポンと、刹那の頭を叩いたあと、優しく額にキスをした。 「君が罪を背負うなら、僕も罪を背負おう。一緒に」 「一緒に・・・・か・・・・」 刹那は大分落ち着いたようだった。 「まるで、聖母マリアのようだな」 「そんなに慈悲深くはない」 「すまない、もう大丈夫だ。いきなり弱気になったりして、すまなかった」 「刹那は、いつもそうだな。大丈夫だと、すぐに立ち上がる」 「そうしなければ・・・・この世界では、生きていけない」 「そうか」 ティエリアは、救急セットを棚の上に直した。 「ライルが気になる。僕は、アレルヤのように傍観者にはなりたくない」 「アレルヤは・・・・一番、賢い方法をとっている」 「だからといって、無視はできないだろう。大切な仲間だ。ライルのところにいってくる」 ぐいっと、刹那が、ティエリアの手を引いた。 「もしも・・・ライルが、俺への仕返しにと、ティエリアに乱暴しそうな時は、構わず大声で叫べ。すぐに助けにいく」 「ああ、分かった・・・・」 「ライル?いるか、ライル?」 アニューの部屋にこもりっぱなしのライルに話かける。 ドアは、温度を探知して自動で開いた。 「アニュー?」 ティエリアの美しい顔立ちは、どこか同じイノベイターというせいもあり、アニューと似ているのかもしれない。 何より、色が似ていた。 二人とも、雪のように白い肌と、石榴色の瞳をしていて、アニューは薄い紫、ティエリアは濃い紫の髪をしていた。 「アニュー・・・・・」 どれほど泣いたのだろうか、ライルは。 彼が泣く場面など、それまで見たことがなかった。 一番の年長者だから泣かない、なんて、そんなことあるわけがないんだ。 「ア、ニュー・・・・・」 ティエリアは、ゆっくりと抱きしめる。 「ライル・・・・」 「ティエリアか・・・」 「今は、アニューと呼んでいい。ライル、愛しているわ」 ティエリアは、アニューの声でそう囁いた。 ライルが身を振るわせる。 「俺も愛していたよ、アニュー・・・・」 抱きしめあっていたが、ふと体を攫われて、ベッドに突き飛ばされた。 そのまま、ライルが圧し掛かってくる。 「ライル?」 「お前をさ・・・・ズタズタにしたら、少しは刹那も傷つくか?」 「好きなようにするといい。刹那には言わない。この件に関しては、僕も刹那の共犯者だ、ある意味」 「どういう意味だ?」 ポレロを脱がされながら、ティエリアは語る。 「僕は、アニューが、イノベイターであると気づいていた」 「なんだと!」 NEXT |