「僕は、アニューがイノベイターであると気づいていた。気づきながら、誰にも言わなかった」 「どうしてだ!何故いってくれなかった!」 「言ったら、あなたはどうしていた?」 「それは・・・・・」 ライルは言葉に詰まる。 「彼女がイノベイターであると分かれば、誰も彼女の周りからいなくなる。彼女を愛する者も」 「俺はどんなことがあってもアニューを愛していた!」 「では、途中の基地で降ろされても、仲を裂かれても良かったと?」 「こんな結果になるくらいなら、そのほうがマシだ!」 「それは結果論だろう」 ティエリアは、ライルに頬を叩かれていた。 ティエリアは、抵抗すらしない。 そのまま、上の服を裂かれる。 ティエリアは、刹那が求めたように、大声で叫ぶ、という行為をしなかった。 叫び声もうめき声も、泣き声一つ漏らさない。 「あなたが、私を汚したいなら、好きなようにすればいい。それで、刹那に対する憎しみが少しでも薄れるというのなら。私は、何もできなかった。ただ、願うことしか。私を傷つけることで満足するなら、好きなだけ傷つければいい。刹那は・・・・彼も、人間だ。何の思いがなく、アニューを殺したわけではない。傷ついていないはずがない。これだけは言っておく。刹那も、人間なんだ・・・・」 そこではじめて、ティエリアが涙を零した。 俺は、何をやっているんだ。 ライルは苛立ちと悲しみの狭間に立っていた。 ティエリアは手を伸ばして、ライルの額に口付けた。 出陣前、アニューが口付けてくれたのと同じ場所だ。 ライルは、ティエリアを突き飛ばす。 それでも、何度でもティエリアは手を伸ばして、ついにライルを抱きしめた。 「・・・・・・・・・・」 「刹那も私も、許してくれとはいわない。逆に、憎んでくれという。憎むことで、生きる意味を見出せるならば、それでも構わない」 「どうしてだ・・・・お前も刹那も、なんでっ」 言葉が、そこで途切れた。 ライルは泣いていた。 ただ、エメラルドの綺麗な目を見開いて。 「人間という生き物は・・・・それでも、誰かを愛してしまう。ライル・・・アニューの、私の中にある記憶を、全てあげよう」 ティエリアが、目を金色に光らせ、ライルと額をあわす。 脳量子波の使えないライルに、ティエリアは自分の記憶の中のアニューと対面させる 「ライル・・・聞こえる、ライル」 「アニュー?」 目を開けると、そこは忘れな草が生い茂る花畑だった。 一面緑と水色の海に覆われて、アニューはいつもの制服姿で微笑んでいた。 「アニュー!」 ライルは駆け出して、アニューを抱きしめる。 「ライル!」 アニューも駆け出して、ライルを抱きしめた。 二人でキスをする。 長い間、抱擁は続いた。 「ここ、は?」 「ここは、ティエリアの心の表層。私が頼んで、出陣前に、記憶の一部を継承してもらったの。それが、今再現されているこの光景」 「アニュー・・・・」 「私は、イノベイターだった。ティエリアもそれを知っていた。ティエリアは優しいから、私をライルから引き離さないでくれた。イノベイターとして覚醒しつつある私を」 「アニュー」 「お願いだから、ティエリアを責めないで。そして、きっと私を殺すであろう刹那を」 「お前、そんなことまで!」 「なんていうのかな。予知夢っていうのかしら。アロウズが襲撃してくる前の朝、私はイノベイターとして覚醒し、あなたを連れてアロウズに戻る夢を見た。でも、夢は途中で変わった。私がイノベイターとして完全に覚醒し、あなたを殺そうとする夢。私は何度も叫んだわ。自分に、止めてって。でも、止まらなかった。あなたは、それでも私を取り戻そうとしてくれて・・・でも、私はあなたを殺そうとした。それを、刹那が止めてくれたの」 アニューは、髪にブルーサファイアの忘れな草の髪飾りをしていた。 NEXT |