「ティエリアに何をした!」 刹那は、ティエリアを抱きしめると、噛み付かんばかりの勢いだった。 「ブラック・・・ボックス・・・・」 「ブラックボックス?精神連結をしたのか?」 「精神連結?」 「ティエリアはイノベイターの能力として、他人と精神を共有することができる。だが、相手が自由にティエリアの心の中を見ることができるから、俺が禁止した」 「そう、か」 ライルは、虚ろな瞳のまま、瞬きさえしないティエリアを見る。 あれが、ティエリアの世界。 ティエリアの心の奥。 ティエリアを支えるもの。 あんな世界が、ティエリアを支えているというのか。 目隠しをされ、手と足に鎖をつけられ籠の中にいれられ、歌う姿はまるでカナリア。背中の天使の証である六枚の翼は手折られて血を流し続けている。 大切そうに、抱いているのはニールの首。 そんな世界が、ティエリアの世界。 なんて哀しい世界なのだろうか。 そこは、ニールとティエリアだけの世界。ニールが、いつもいつもティエリアを籠から出して救い出す。でも、ティエリアはニールが消えて一緒に連れ去られると、また籠の中で囚われて歌っている。 「あれが、ティエリアの世界・・・ティエリアという人間を支えている心の基盤・・・」 ライルは、見てしまって目を伏せた。 どうして、ティエリアを傷つけようなどと想ったのだろう。 心の基盤さえ、ボロボロじゃないか。 その上で、刹那への当てつけに傷つけようなんて。 「ティエリア。俺はここにいる。還ってこい」 瞬きもしない石榴の瞳を見て、刹那は語りかける。 何度も、何度も。 二人の愛は、なんて痛い・・・・。 「ティエリア、愛している」 ピクリと、ティエリアの指が動いた。 そのまま、ゆっくりと瞬きをする。 「ああ、私は・・・・アニューとは、会えたか、ライル」 刹那の警戒も気にせず、ライルはティエリアを抱きしめた。 「ごめんな。ティエリア、ごめんな・・・・・」 ティエリアは、アニューのような綺麗な微笑で、抱きしめ返してくれた。 「大丈夫だから、ライル。あなたこそ、大丈夫か?」 「アニューの記憶、言葉・・・・受け取った。大丈夫、とはまだいえないけど・・・・」 ティエリアは、涙を零していた。気づくと、ライルも泣いていた。 ライルは、そのままアニューの部屋で泣き疲れて眠ってしまった。 ティエリアは、刹那に抱き上げられて、刹那の部屋に向かっていた。 「ライルに、見られた。私の心の奥を・・・・私が壊れない理由は、心の奥がすでに壊れているから。それが基盤となっているから、私はどんなに辛いことがあっても壊れない」 ティエリアは、ライルに破られた服の上からかぶせられた刹那のポレロを大切に持っていた。 NEXT |