世界が終わってもU「日本へ」







庭は、ティエリアが花好きのせいもあって、色とりどりの花であふれていた。
そこの一角に、二つの薔薇を埋める。

「これでいいかな」
ニールが、全ての野良作業を任されて、額に汗をかいている。
季節は初夏。
時計は12時近くを指している。

リジェネ曰く「僕が野良仕事なんてするわけないだろ」
ティエリアがスコップをもってきたが、薔薇をそのままにぎって棘で手を傷つけて「痛い痛い」とギャグマンガのようなことをしていたので、ニールが全ての作業をする羽目になった。
ティエリアとリジェネに注文されまくりながら、ティエリアの庭である花たちに混じっても、違和感のないようにちょっと庭をいじっていると、思いのほか時間を食ってしまった。

「昼飯にすっかー」
ニールがスコップを直す。
リジェネは、昼食を作りにキッチンに戻る。
ティエリアは、「マリナ・ブルーローズ」が気に入ったようで、水をやっていた。

ぽかぽか。
初夏の日差しを浴びるジャボテンダー。
「光合成は終わりましたか、ジャボテンダーさん」
リジェネのジャボテンダーと一緒に、縁側に座らされたジャボテンダーが二つ。
幼子のようなあどけない仕草で、ジャボテンダーを抱きしめる。これで、IQ180こえてて、年商が100億こえてて、AIの特許権もってたり、一千万枚も突破するアルバムを歌っていたり・・・・詐欺ではないでしょうか。

ニールは、泥にまみれた手を綺麗に石鹸で洗って、ティエリアの頭を撫でる。
なでなで。
ティエリアは子猫のように擦り寄ってくる。
ぎゅーっと、ニールに抱きついてくる。
ティエリアからは、甘い百合の花の香りがした。リジェネの場合、少し控えめな薔薇の香りだ。二人とも、本当に神秘的な存在だと思う。

ティエリアに出会えて良かった。今更ながらに、ニールはそんなことを思うのであった。

昼食をとって、ニールがクッキーを焼いてくれた。
それがまた大量で、お隣のライルとアニュー夫婦にもおすそ分けした。

ティエリアは、クッキーを食べながら、AIのプログラミングをはじめる。一度集中すると、他の物事が目に入らない主義で、ニールは放置される。
ニールは、一人夕食の買い物に出かける。
リジェネは何処かに出かけてしまった。何処に出かけたのかは追求しない。リジェネは、今でもイオリアの研究所で何かの研究を続けているらしかった。

「只今、ティエリア」
「おかえりなさい」
ブンと、ジャボテンダーが二匹勢いよくべし、べしとニールに投げつけられる。
それが、ティエリアのジャボテンダーでの愛し方。
ティエリアはジャボテンダーを拾うと、ベシベシと何度もニールを殴った。痛くないので、ニールも笑って済ます。
「今日の夕食は・・・・」

「ごめんなさい。急遽、出かけることになりました」
「夕食は?」
「食べてる暇がありません。僕が開発した、発売前のAIナビゲーションシステムに、致命的なバグが発見されて。今から、急いで日本に発ちます。東京の刹那の家で、しばらくは泊り込んで仕事をすることになりそうです。携帯で、ちょくちょく連絡は入れますので」
「そうか。気をつけてな」
「はい。僕も、あなたとしばしの間とはいえ、離れることになって寂しいです」
二人は、深く口付ける。

「出発の便が迫っていますので。車、借りていきますね」
「ああ。日本についたら、ちゃんと連絡よこせよ」
「勿論です」

ニールは、穏かだった。

まさか、ティエリアの乗った飛行機が墜落するなんて、そのときは微塵も、僅かな可能性すらも浮かばなかった。
 





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