世界が終わってもU「魂の慟哭」







「嘘だ!」
ニールは悲鳴をあげていた。
ニュース速報で、ティエリアが乗っていた飛行機の行方が分からなくなったという。
リジェネも帰ってきた。
「ニール、落ち着け」
「嘘だ、嘘だ、嘘だ!」
「ニール!」
パンと、頬をはられて、やっとのことでニールは恐慌状態から脱した。

二人揃って、空港に出かける。
そこには、家族の安否を気遣う人でごった返していた。
「もしもし、俺だ、ニールだ。刹那、そっちにティエリアは?」
「着いていない。俺も空港にいる。ティエリアの姿はない・・・・・ティエリアは、あの便に乗ると言っていた」
ニールは、呆然と立ち尽くした。
「おい、ニール、聞こえているのか、ニール?」
ニールの手から携帯電話を奪い、リジェネがかわりに出る。
「ニールのことは任せろ。そちらは、自宅で待機していてくれ」
「リジェネか。頼む。ティエリアは絶対に生きている」
「生きているとも。こんなことで、ティエリアが死ぬはずがない」

リジェネは、脳量子波を使った。
宇宙にいても、届きそうなくらいに強い脳量子波を。
けれど、反応はない。
「くそ」
床を乱暴に蹴るリジェネ。
ニールは呆然としていた。放心状態だ。
「しっかりしろ、ニール。信じろ」
「リジェネ・・・・」
ニールは、涙を零していた。

リジェネを抱きしめるニール。リジェネも、気づくと泣いていた。
ニールを抱きしめ返す。

ああ、どうか神様。

どうか神様。

奪わないで下さい。

ティエリアを、僕たちから奪わないで下さい。

空港は、人ごみでごった返しており、警察まで出動する有様だった。そのまま空港にいても何もならないので、リジェネは放心したニールを引っ張って、空港の近くのビジネスホテルにチェックインする。
三件目のホテルだった。
どこのホテルも、飛行機に乗った家族を心配する親族で溢れかえっていた。

ツインの部屋に入ると、ニールは放心状態から脱したようで、TVをつけてはしきりにニュースを聞いていた。
夕食を、二人ともとっていなかった。
だが、それどころではない。
軽く、清涼飲料水を買って、ニールに渡す。
「おい、ニール」
ニールは、それを飲まずに、頭にかけてしまった。
「守るって、誓った。一緒に愛し合うって、もう二度と別れないって誓った。もしもの時は、俺は・・・そう、俺の宗教で禁じられていることをする」

ニールは、カトリック教徒だ。
キリスト教が禁じていること。

それは、自殺。

リジェネは、舌打ちした。

そんなはずはない。昼に、あんな笑顔を見せていたではないか、愛しいティエリアは。

やがて、深夜になる。ニュース速報が入ってきた。
機体の残骸が山の中で見つかったというものだった。乗客、乗員含む356名、生存絶望。

「ティエリア・・・・」
リジェネは、ニュースを食い入るように見つめた。
チャンネルを変えても、どれも同じニュースが流れていた。
乗客、乗員含む356名、生存絶望。
どのニュースも、そのタイトルだった。

すでに、便に乗ったか乗っていないかのチェックは空港でした。
やがて、ニュースは墜落した飛行機に乗っていた人名を公開しはじめる。時が過ぎる。
「マイケル・ロイダーさん(62歳、男性)、ニーナ・ティペニーさん(18歳、女性)、アディ・ハリル・メイダーさん(34歳、男性)・・・」
名前を読み上げていく。
「ファーナ・ミツヤマさん(45歳、女性)、ティエリア・アーデさん(17歳、男性)、クイェル・トレスさん(22歳、女性)」
ブツッ。
そこで、ニュースは途切れた。
「ニール!」

エメラルドの瞳は、大きく見開かれたまま。涙が、零れ落ちた。

「ティエリアあああああああぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!」
魂の慟哭。

他の部屋からも、似たような悲鳴が聞こえてくる。
空港からも。
失った家族の名前を呼ぶ叫び声。






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