世界が終わってもU「家族の形」







三人で、泥まみれになって、帰宅した。
草むらに投げ捨てた、家族の証である十字架のペンダントを、明かりもなしで探したせいだ。
それぞれシャワーを浴びて、水分を補給して、やっと落ち着いた。

四方に、連絡で無事であることを知らせる。

誰もが安堵した。

刹那に到っては、マリナと一緒に日本を発ったという。

誰もが涙を流して、絶望していた。
だけど、神様は見捨てていなかった。

緊急の連絡が入り、AIのバグはチェックした者のミスチェックであることが分かったのだ。その後何度検査しても、AIにバグは見当たらず、飛行機に搭乗間際だったティエリアは、結局日本いきのその墜落した飛行機には乗らなかったのだ。そして、飛行機に乗らなかったと航空側に連絡する時間もなく、そのAIを搭載した世界中の各会社にバグはなかったと連絡することに追われていたのだ。
アイルランド支部の会社に出社し、ティエリアの開発したAIのバグはミスチェックであると大々的に報道する用意に終われ、その時にニュースで自分が乗るはずだった飛行機が墜落したことを知った。

ティエリアはニールとリジェネの携帯に何度も連絡を入れた。
でも、リジェネがニールと自分の携帯を壊してしまったせいで、一向に繋がらない。
脳量子波でリジェネに話しかけても、精神が壊れそうなほどになってしまっているリジェネには届かなかった。
家に帰ったが、一向に二人は帰ってこない。
いてもたってもいられず、ティエリアは二人を探しに出かけた。
空港までの道を、走りながら。

やがて、僅かにリジェネに脳量子波が届いて、リジェネはそれに気づいていなかったが、二人の所在を確認したティエリアは、道なき道を走り、靴もしまいには脱ぎ捨て、裸足で泥だらけになって走った。
ティエリアは泣いていた。
リジェネの脳に、僅かであるが触れることができたのだ。
そこには絶望があった。全ての絶望。そして、死というキーワード。
ティエリアは、服が破れても、足の爪が割れても、足から血を流しても気にせず、体力がついにつきて、足をひきずりながら、ニールとリジェネのほうに向かって歩いた。
死というキーワードにとても恐れたのだ。搭乗のキャンセルを空港会社にしていなかったため、そのままティエリア・アーデ死亡というニュースが流れ、会社側も慌てた。

どうか、後追い自殺なんてしないで。
僕は、ちゃんと生きてるから。
こうして、生きてるから。

ティエリアは、泥だらけになって、ニールとリジェネと、空港からの帰り道で出会う。
本当に、また一生分の涙を使った気がした。

ティエリアはアキレス腱を傷めていて、入院することになった。
そのまま、ニールとリジェネも精神的なショックから、一緒に入院するはめとなった。
それくらい、ティエリアを愛していたのだ、二人とも。

何度も、愛していると、ニールと囁きキスをした。抱きしめあった。リジェネとも。互いの体温を共有して、生きているということを確かめ合った。

それでも、涙はまた溢れる。

「私は、生きているから。ニール。泣かないで・・・・」
ティエリアを抱きしめたまま、静かに涙を零すニールの背中を撫でる。
ティエリアは、アキレス腱のほかにも、足の筋肉を傷めており、また足の爪がはがれていたりと、全治3週間の怪我を負っていた。
「うん・・・・ティエリアの香りがする・・・体温がある」
ニールは、まるで子供に戻ったように、弱くなっていた。

「俺を置いて、いかないでくれ」
「あなたは、私を一度置いていったくせに」
「ティエリアの孤独が、痛いほど分かった。もう、絶対においていかない」
二人は、体はつなげずに、心を何度も繋げた。

リジェネは、気丈さを、女王様ぶりを取り戻していて、一番に退院した。
「ふん、人間の病院なんて辛気くさくて、飯も不味いしやってらんないね」
そんなリジェネの元には、すでにティエリアの分まで、雑誌依頼の仕事が舞い込んでいた。
「奇跡の生還を果たした双子の片割れ・・・・ね。売れるだろうねぇ。とえあえずは、CB機関が情報規制してくれてるから、報道陣がつめかけることはないよ」
「うん、ありがとう、リジェネ」
氷の結晶のような笑顔は健在だ。

ニールは、思ったよりも精神的なショックが大きく、一時はカウセリングまで受けて、精神安定剤を服用する羽目になった。
でも、日に日に元気になっていくティエリアの愛で、回復していった。

 



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