読む前に、「ラブファントム」→「ユダ」の長編をお読み下さい。続いています --------------------------------------------------- 「寝すぎちゃった・・・・あふ」 もう昼過ぎだった。欠伸をしながら、ティエリアはキッチンに入り、それからリビングルームに入って刹那の姿を探す。 今日は刹那は仕事は休みなはずだ。 「刹那?」 「にゃおん」 「にゃあん」 「マリア、イフリール。刹那知らない?」 「にゃおん」 「うにゃあ」 二匹の白と黒の猫は、ついてこいとばかりにティエリアに尻尾を振る。 猫用のドアを二匹でくぐる。ティエリアは猫じゃないから、そんな小さな入り口から出入りはできない。窓をあけて、裸足のまま外にでる。 猫たちは、そのまま走る。 ティエリアは、パジャマ姿で裸足のままだ。 どうしようかと思ったけれど、もう外に出てしまった。そのまま、猫たちを追いかけると、近くの公園にきた。 ベンチに転がっているのは、刹那だった。 日に焼けた少し浅黒い肌が健康的だった。 ティエリアは、隣のベンチに座る。猫のマリアとイフリールは、ティエリアに擦り寄ってくる。 「ああ・・・・エサあげるの忘れてた」 もう昼なのに。 猫のマリアとイフリール、それに犬のセントバーナードのアズラエルにエサをあげ、世話をするのはティエリアの役目だった。 「最近たまに姿が見えないと思ったら、こんなとこで昼寝してたんだな・・・・」 綺麗な顔は、昔から変わらない。 自ら進化し、イノベイターと変わらぬ存在となった刹那は、ティエリアと同じく不老だ。 21の時のまま、体の時間を止めてしまった。それはティエリアも一緒で、17の時に時間を止めてしまったティエリアと刹那は、並ぶとよく似合っていた。 季節は春。 ティエリアが、ロックオンという生命を作り出し、そして再び彼を失ってから、もう二年が過ぎていた。 この二年間、ずっと刹那と一緒に暮らしていた。ティエリアは表向きも女性ということになっていて、刹那と籍を去年入れた。 幸せだと思う。 ロックオンと過ごしていた日々と同じように、穏かな日々。 フワリと飛んできた何かが、刹那の髪にかかる。フワリ、フワリ。 少し離れたところにある大きな桜の木が満開だった。 風に揺れて散る姿はまるで桜雪。ふわふわと降ってくる桜の雪に埋もれていく刹那を、花びらの海からかき分けるようにティエリアが手を伸ばす。 触れるだけのキスをする。 ティエリアは太陽を仰ぐ。 ポカポカしていい天気だ。大空はどこまでも広がり、白い雲が風に吹かれてゆっくりと移動していく。 「にゃおん」 「にゃああ」 マリアとイフリールは、鳴き声でおなかがすいていますと語っていた。 猫の言葉なんて分からないけど、仕草やなきかたでおなかが減っているときくらいは分かる。 「ああ・・・・・もうちょっとまって・・・・」 ティエリアは、隣のベンチにコテンと横になってしまった。 遅くまでAIのプログラミング作業をしていたせいで、まだ眠い。 「んー・・・・」 目を瞑ってしまうと、ゆっくりと眠気が襲ってきた。 ふわり、ふわり。 桜が散って降り積もっていく。 届いていますか。あなたに、私の言葉は。 今、私は幸せです。 あなたがいなくなった世界で、もう幸せになんてなれないと思っていました。 でも、今とても幸せです。 「あ・・・・・マリア?イフリール」 猫の鳴き声で目覚めた刹那は驚いた。 隣のベンチで、パジャマ姿のティエリアが寝ていたからだ。 「こんなところで寝るな」 自分は眠っていたくせにと、ティエリアが目覚めたら文句をいわれそうだ。 薄いが、上着をかけてやる。 そして、マリアとイフリールがしきりに体をこすりつけてきたり、甘えた鳴き声をするので、ああ腹をすかせているのかと思った。 「帰るぞ、マリア、イフリール」 「にゃおん」 「ふにゃあ」 ティエリアを昔のようにしっかりと抱き上げ、刹那は家に戻った。 -------------------------------------------- 書こうか書くまいか思ってたシリーズのU アンケートで票が入っていたので、続きを書いてみる。 NEXT |