また、二人で歩きだす。 風で、サラサラと長いティエリアのストレートの髪が流れる。 「桜がからまってる」 「いいよ。今とっても、どうせまたからまるだろうし。家に帰ってからとる」 ティエリアの髪には、ロックオンからもらったお気に入りのブルートパーズの忘れな草の髪飾りがいつものように輝いていた。 そのへん、本当に刹那は寛容だ。ティエリアがロックオンと恋人時代だった時にもらったアクセサリーや服を捨てられず、そのまま持っているが、怒りもしない。ロックオンの遺品は昔に比べて処理したので少なくなったが、それでもティエリアには処理する時相応の覚悟がいった。 刹那は言う。 ロックオンを愛したままでいいと。 それが、ティエリアには何より嬉しかった。 安心して、ロックオンを愛した心を持ったまま、刹那に愛していると告げられる。 無理に変わる必要はないといってくれた。自分を偽る必要はないと。 「あのね。・・・・・・・CB機関で精密検査したけど、やっぱり、ダメだった」 「何が?」 「子宮の移植に成功しても、赤ちゃんできないって」 刹那が、真っ直ぐ自分を見てくる石榴の瞳を見つめ返す。 「ティエリア・・・・」 「君との愛の証が・・・・僕にも、できることなら、欲しかった。ロックオンの時も思ったけれど・・・やっぱり、無性だと危険すぎるって。無理だって」 「愛してるから」 抱きしめられた。何度も頭を撫でられる。 「別に、子供がいなくてもいい。ティエリアがいるだけで、俺は満足だから」 「僕も、刹那がいるだけで満足だよ」 風が、うなる。 二人は、桜が散る中口付ける。 次の瞬間、ティエリアは驚愕に目を見開いていた。 「どうした、ティエリア?」 「ううん、なんでも、ないんだ・・・・」 きっと、幻。 そう、桜が見せた幻影。 彼は、もう死んだのだ。 私が作った彼も、二年以上前に死んだ。 「顔が真っ青だぞ?」 「ごめん・・・・先、家に帰るね。アズラエルのこと、お願い」 愛犬のリードを刹那に持たせ、ティエリアは走り出した。 桜から、一刻も早く逃れたい。 今はもう、刹那との愛で満たされていて、刹那との未来しか考えていなかった。 彼のことは、もう穏かな記憶の波にあるだけで。 夢の中に出てきても、彼は優しくエメラルドの瞳で微笑んで、二人で幸せになれといってくれた。 壊したくない。 壊したくない。 今を、壊したくない。 この幸せを。 桜の風が止んだ場所で、ティエリアは立ち止まる。 「マ、リナ姫・・・・・」 「ああ・・・・見違えるように美人になりましたね、ティエリアさん」 優しく微笑む姿は昔と変わらないように見えて、どこか薄暗い。 「返して、もらいにきたの。刹那を」 「刹那は・・・・あなたとのことは、終わったと」 「そう。刹那が、無理やり終わらせた。私たち、愛し合っていたのに。全部、あなたのせいよ。刹那を返してもらいます」 この女性は、そんなことをいうような人ではなかったはずだ。 愛は、人をかえる。 愛は、憎しみを生む。 「僕は刹那を愛しています」 「あなたにも、ちゃんと、あなたを愛する人を探し出したから。あなたが、今でも愛している人を」 桜もないのに、桜の花びらが一枚とんできた。 違う。 ティエリアの髪にからまっていた桜の花びらが舞い落ちたのだ。 「嘘だ・・・ニール・・・・・」 黒いベンツの中から、昔となんら変わらないニール・ディランディの姿をした青年が現れ、着飾ったマリナの横に並ぶ。 「嘘だ」 どうか、壊さないでください。 この幸せな時間を。 NEXT |