「違う。あなたはもう、いないはずだ・・・・・」 「俺は・・・誰なんだか、お前さんは知っているのか?俺、記憶喪失なんだ」 その言葉に、ティエリアがまた止まる。 なんなのだろうか、これは。 これは、でも現実。 マリナの話では、今から9年前に、民間の宇宙貨物船が宇宙の戦場後跡で負傷したこの青年を見つけ、中東の病院に収容したのだという。そのまま、ずっと目覚めることなく眠り続けていた青年が目覚めたのは二年半前。ちょうど、ティエリアが作ったロックオンが、病で死んだ頃のことだ。 眠っていた間コールドスリープが施され、容姿は24歳の頃と全く変わらない。 マリナは、中東再建に尽力を尽くし、刹那と一緒に中東に住んでいた。やがて、刹那がCBから呼び出され、そのまま一方的に別れを告げられた。 「刹那を、返して。私には、刹那しかいないの」 マリナは、涙をためたブルーサファイアの瞳でティエリアを見る。 「僕にだって、もう刹那しか・・・・・」 「じゃあ、この人は?この人はあなたが愛したニール・ディランディでしょう?ライルという双子の弟さんにそっくりだわ。ニールって方じゃないの?」 「ニール・・・なの?」 「俺は、ニールっていうのか?」 ニールは、昔のようにエメラルドの懐かしい瞳でティエリアを見つめてくる。 指には、ペアリングとして昔はめていたガーネットの指輪。 「ニール!」 ティエリアは、気づくとかけよって抱きしめていた。 ニールも、ティエリアを抱きしめ返す。 「なんだろ。不思議だな。あんたのこと、知ってる気がする」 二人は、長い間そうしていた。 そこは、刹那とティエリアの家の前。 刹那がアズラエルを連れて戻ってきて、声を失う。 「マリナ・・・・・ニール?」 「刹那・・・・」 ティエリアは、泣いていた。 躊躇いがちにニールを離して、刹那と並ぶ。 「どうして?あなたが並ぶのは、この方の隣でしょう?」 マリナが泣きながら、笑う。 「刹那。帰ってきて。今でも、私はあなたを愛しています。あなたしか愛せないの」 「マリナ・・・・・」 「刹那、あなたは私を捨てたわ。一方的に。でも、それでも愛しているの!」 「マリ・・・・ナ・・・」 「刹那」 二人は歩み寄る。 自然と、抱き合っていた。 「私、は」 ティエリアは、混乱していた。 「なぁ。あんたの名前、教えてくれないか」 「私はティエリア」 「ティエリアか。なんか懐かしい名前だな」 目の前で、マリナが刹那に深いキスをした。刹那は拒まない。 マリナを一方的に捨てた、というのは半ば事実だった。「今でも、ティエリアを愛しているんだ、すまない」とだけいって、刹那はマリナの前から消えた。 直接は会いにくるなといわれていた。何度か手紙でやりとりをしたが、やり直すことはできない、との返事しかもらえなかった。だが、マリナを愛していない、嫌いになったわけではないとは書いてあった。ただ、誰よりも、守りたい存在ができたのだからと。 マリナは中東再建に負われ、公務に負われていた。そして、アザディスタン再建後、皇女の地位を捨てて一人の国民となり、アザディスタンは大統領制になった。それでも、人々はマリナを慕う。初代大統領にマリナが選ばれたのだ。 マリナは、しばしの休暇をもらって今日本の東京に来ていた。 「マリナ、どうして」 「愛しているから。それだけでは、だめなの・・・・?」 マリナは刹那から離れない。 「マリナ・・・俺は」 「ティエリアさんには、ニールさんがいるわ。私たちも、やり直しましょう?」 「・・・・・・・やり、直す・・・・」 マリナが、また刹那に口付ける。刹那は拒否しない。 「あ・・・」 何もかもが壊れていく音がした。 「ティエリア!」 ティエリアは走り出した。かわいいスカートが翻る。 刹那が追いかけようとしたが、マリナに止められる。かわりに、ニールが駆け出していた。 愛は、人を変える。愛は憎しみを生む。愛は悲しみを生む。 でも、人は愛することをやめない。 なぜなら、人は愛なしでは生きられないから。 ------------------------------------------ ごめんマリナ悪役。。。 NEXT |