ラブファントムU「俺が愛するのは」







とりあえず、戻ってくることを祈りながら、警察に捜索届けを出す。
財布の中にはあまり現金は入っていなかったが、クレジットカードがある。念のためにと貯蓄されている額は、十億をこえる。年収100億のほとんどを慈善団体やユニセフに寄付しているティエリア。
まとまった額をひきだされたら、本当に何処に行ってしまうかも分からない。

刹那は、今までにもなく焦っていた。
ティエリアが、二人納得の上でニールと暮らし始めるのはいい。
でも、こんな終わり方は嫌だった。
もしも別れることになっても、ちゃんと幸せになれよといって別れたい。

・・・・・・・・・別れる?

そこで、刹那ははっとなった。

別れることを、すでに前提で考えているのか、俺は。
いいや。
俺たちは、確かに愛し合っていた。
俺だって、たまにはわがままになる。
たとえ本物のニールでも、ティエリアは渡さない。

「俺は、こんなにもティエリアを愛しているのか」

一人になって、冷静になり、どんなに自分がティエリアを必要としているのか再認識させられた。
ニールと愛し合ったとしても、その仲を裂くことはしない。でも、一緒にいたい。
家族のように、三人で暮らせないだろうか。
ニールも納得してくれる方法を探そう。俺は、ニールだって好きだ。

我ままだな、俺は。
二人とも手放さないなんて。

マリナとやり直すという選択肢はもうない。大統領になってしまった彼女はもともと皇女で、いきる次元が違うのだ。今でも愛しているかといわれれば、分からない。
冷たいかもしれないけれど、もう、愛していないと思う。

そうだ。俺が愛しているのは、ティエリア一人だけ。

ポストに、宛名不明の封筒が入っていた。
中をあけて読む。
(刹那へ。長いこと、僕を支えてくれてありがとう。僕は、今でも君の事を、たとえマリナ姫に責められようとも、神の怒りに触れようとも、愛している。愛している、この思いは本当だから。今まで、とても幸せだった。どうか、マリナ姫と幸せに。僕は、僕なりのやり方でニールと幸せになる道を探そうと思う。刹那。身勝手でごめんなさい。貯蓄してあった僕名義の資産及び家などは、全て刹那に譲ります。マリアとイフリールとアズラエルをよろしく・・・・・・愛してる)
ところどころ、水で滲んだような痕がある。
きっと、涙を零しながらこの手紙を書いたのだろう、ティエリアは。

そう思うと、胸がしめつけられそうになった。

「ティエリア。俺も、愛しているから。終わりになんかさせない」
切手に貼られた郵便局のしるしを見る。

ティエリアは、動揺したときは静かに行動するタイプだ。
まだ、東京の何処かにいる。

自宅を出ようとしたところで、マリナが刹那を背後から抱きしめた。
「刹那、愛しているわ、やり直しましょう」
「すまない。俺は、もう愛していない」
「せ、つな・・・」
「俺は、ティエリアだけを愛している。すまない。憎んでくれて構わない。二年以上前に、ティエリアを選択した時から、マリナ、もう俺たちの恋は終わったんだ。マリナはいつも人々を優しく照らして・・・・マリナの愛は、そう、聖母マリアの愛。人を包む愛だ。俺に対する愛もそうだった」
「そう・・・・・やはり、結局私が悪いのね」
「違う、そうでは・・・・」
「ごめんなさい。全て、陰謀です。言いくるめられたの。刹那を、取り戻せるって。あの人は、ニールではないわ」
「では、誰だ!」
「もう、アンドロンドが先進国では発売されているのは知ってるでしょう?とても値段は高いけど」
「ま、さか」
「そう、彼はアンドロイド。ニールという人に外見を似せて作られた、機械。中でも、最先端の技術を使っていて、人間と変わらない。食事も睡眠もする。でも、人間じゃない。機械なの」
「ティエリアに、それを知らせずに・・・」
「ええ。彼は、きっとあのアンドロイドのことを本物の恋人だと思ってる。でも、違う」
「マリナ、何故」
「あなたを愛しているからよ!あなたを取り戻せると思った。アンドロイドでもティエリアさんにならちょうどいいと思った。愛しい人の命を、神の倫理に逆らって生み出すような人には、アンドロイドがお似合いだと!」
マリナは泣きじゃくっていた。
「マリナ・・・・」
刹那は、謝った。何度も。
「マリナ、すまない、すまない・・・・・愛してやれずにすまない・・・・」
「もういいの。ティエリアさんを、見つけてあげて。あのタイプのアンドロイドは、定期的にメンテナンスしないと暴走して人命を脅かす危険性があるの」
「誰に、いいくるめられた?」
「ティエリアさんと同じ顔をした男性。リジェネ・レジェッタという方」
「やはり、か」
刹那は歯軋りした。

何度か、ティエリアに接触してきたことがある。
ティエリアを愛しているのだと。とても屈折した愛だ。リジェネに、ティエリアは攫われかけたこともある。




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