「ニール?お腹はすいていませんか?」 「ああ、大丈夫だ」 ニールは、穏かな表情で、ティエリアと一緒のベッドで横になっていた。 そう、昔懐かしいあの頃のように。 「愛してるよ、ティエリア」 「愛しています、ニール」 ニールに抱き寄せられて、ティエリアはくすぐったさを感じていた。 ここは、名も知れぬホテルの一室。 こんなところにいるなんて、流石の刹那も想像がつかないだろう。 刹那のことだから、まだ東京にいるのはばれているだろう。まだ、心の整理ができていない。 この暮らしなれた東京を離れる決心がつかない。 「ニール?どうしました」 「ごめん、少し眠い。寝るな」 「はい。僕は、少しシャワーを浴びてきますね」 「うん。俺が寝てたら、寝てくれて構わないから」 「一緒のベッドで眠りましょう」 「ジャボテンダーさんは、どうした?」 ニールが、ティエリアを抱きしめる力を緩める。 「ニール?記憶が、少しだけ戻ってきたのですか」 「うん。なんか、思い出した。ジャボテンダーだっけ。ティエリアの大好きなだきまくら」 「家に・・・・・刹那との家に、置いてきてしまいました。もう戻るつもりはありません。僕は、あなたと一緒に・・・そうですね、あなたの故郷のアイルランドに行きましょう。そこで、一緒に暮らしましょう。また、ゼロからはじめましょう」 「ああ。また、一緒に暮らそう。記憶も、きっとそのうち戻るさ」 ティエリアはベッドを抜け出して、シャワールームでシャワーを浴びる。長い髪は、シャンプーとリンスに時間がかかった。 ニールが伸ばしたほうが似合うといって、伸ばし始めた髪。 もう、腰の位置を通り越してしまった。確かに、ニールに言われた通り、長すぎる。 いい機会だ。 切ってしまおう。 刹那との恋心と一緒に。 ティエリアは、シャワーからあがり、長い紫紺の髪をドライヤーで乾かすと、適当にショップで買ったTシャツだけを着て、寝てしまったニールに毛布をかけ、隣に寝た。 「愛しています・・・・」 「俺も、愛してる」 ゆっくりと、エメラルドの瞳が開く。 「ずるいです!」 「ははは。ティエリアってかわいいな」 「あなたが生きているなんて、奇跡だ」 「ずっと、傍にいるから」 「今度こそ、はい、ずっと傍にいてください」 ティエリアは、そのニールがアンドロイドであることも知らずに、純粋な愛を注ぐ。 「世界で一番あなたのことを愛しています」 「俺も、世界で一番おまえのことを愛してる・・・といいな」 「いいな、とは?」 「ほら、刹那ってこのことは?」 「もう、終わったんです。別れも済ませました」 「そうか。苦しかったろうに。ごめんな」 抱き寄せられて、ティエリアは石榴の瞳から幾つもの涙を零した。 愛は、その瞬間、いや、一緒にいたときは偽りではない本物であったと思う。 あの人の魂が、宿っているように感じたんだ。 NEXT |