火の勢いが増してきた。 服の一部や長い髪は焦げてしまった。 もう階下へはいけない。 ニールはティエリアを抱えると、最上階の屋上まできていた。 「待て・・・・マスターである僕の絶対命令に従わずに、勝手に行動した挙句・・・動作回路である頭脳部分を銃で撃ちぬいておきながら、動けるだと?」 リジェネは、銃を構えていた。 「大人しく、ティエリアを渡せ」 「嫌だね。誰がお前みたいな悪魔に、恋人の天使を渡すもんか」 舌を出すニール。 いや、ニールの姿をしたアンドロイド。 「くそ、死ね」 リジェネは銃の引き金をひこうとしたが、出血で手が震えて的がうまく決まらない。万が一にもティエリアの生命に重要な部分を撃ってしまえば、永遠にティエリアを失ってしまう。 それは、リジェネにとってとてつもない恐怖だった。 どんなにティエリアに似た人工生命体やアンドロイドを作っても、飢(かつ)える心。 どれも、ティエリアにはならない。 そう、どれも模造品だ。 ティエリアは、ティエリアだから美しく愛しいのだ。ティエリアという精神を構築した、たった一人のイノベイターが、リジェネにとってもっとも世界で愛しい半身なのだ。 ティエリアを、作れるわけがない。 ティエリアは、世界にすでに存在するのだから。 「ニール!」 「口閉じてろよ、舌噛むぞ。隣のビルに飛び移る」 「はい!」 ティエリアはニールにしがみつき、衝動にたえる。 ニールは、勢いをつけて跳躍すると、隣のビルに飛び移った。 「ティエリア・・・・愛してるよ。はは。僕も、ここで終わりかぁ」 リジェネは、出血を意図的にとめた反動で、体の全機能が低下しかけていた。 ティエリアは、ニールを見上げる。 「ニール。リジェネを、ここに連れてきて」 「おいおい、本気か?」 「お願いです」 「分かったよ」 リジェネを抱えて、ニールはティエリアの元まで連れてきた。 ティエリアは、ユニセックスな衣装の服を破くと、リジェネの銃弾の傷にまきつける。 「君は・・・・だから、愛しくてたまらないんだ」 リジェネは、無理やりティエリアと口付ける。そして、そのまま気を失った。 「哀れなリジェネ」 ティエリアは泣いていた。 「あー。ほんと、9年分動いたかんじ?」 「ニール、大丈夫ですか」 「大丈夫大丈夫。修理すればすぐ直るって」 「良かった・・・・・」 「それより、刹那がくるぞ」 「え。刹那が?」 「ここのホテルの住所かいて手紙で送っといた」 「そんなことを・・・あなたという人は」 「いや、おれ人じゃないから。アンドロイド。できれば、人として生まれたかったなぁ。そして、ティエリアを愛したかった」 「何を言っているのですか。まるでお別れのようなこと、嫌です。言わないで下さい」 「はいはい」 ティエリアは、精神にはっていたバリケードを解いた。 瞳が金色に輝く。魂が呼応しあう。 刹那の声が、ティエリアに届いた。 (ホテルにいるのか!?無事なのか!?) (大丈夫。ニールに助けてもらった。無事だよ。隣のビルの屋上にいる) (分かった。すぐに助けにいく) (うん・・・・) (愛してる、ティエリア) (うん・・・・逃げてばかりでごめんなさい。ちゃんと、ニールと一緒に話し合って、最善の策を見つけよう) (でも、そのニールは・・・) (知ってる。アンドロイドなんでしょ。でも、本物のニールみたいだよ。マスターであるリジェネの命令に逆らってまで、僕を助けてくれたんだ。廃棄処分なんて嫌だよ。彼は、何処かにニールの魂を宿している) (分かった。すぐ行く) ニールは、ずっとティエリアを抱きしめていた。 「なぁ。キスしていい?」 「はい」 二人は、深くキスをする。 まるで、ニールは9年分の愛をこめたかのように、優しくティエリアにキスをした。 知ってる? 神様の奇跡は、そう長くは続かないって NEXT |