「キシャアアアアアアアア」 「かわいそうに・・・・鱗も精神もボロボロだ。少し下がっていろ」 ティエリアが、杖で円陣を宙に描く。 「私と、汝は契約した。汝は私と契約をかわした。汝の名はドラゴニック・ホーリーナイト」 ティエリアは、詠唱を途中で破棄して、全てのドラゴンをひれ伏させたという、伝説のドラゴンナイトを召還した。本当の呪文はとてつもなく長い。詠唱完全放棄もできるが、始めの詠唱をするのはくせだ。 「はいや!」 ドラゴンホーリーナイトは、黒い馬で空を翔る。 「グルルルルルル」 狂気に彩られていたドラゴンの瞳が澄んでいく。 「我にひれ伏せ!カイザードラゴンよ!私は全てのドラゴンを屈服させしドラゴンロードの名を持つ者」 こおおおおおお。 カイザードラゴンの、氷のブレスが、ティエリアたちにむけて放たれる。 「シルフ、守りのシールドを!」 ニールが、銃に宿ったシルフに命令する。 「全ての吐息を、絶ちしは聖なる力。神の意志を、力を引き継ぎ、大いなる祈りをここに。どうか、我らを救いたまえ。ホーリーシールド!(聖なる盾の天蓋)」 アレルヤがプリーストの守りの呪文を唱える。 「絶望した・・・・・ああああ絶望した」 ライルは絶望している。 刹那は先頭にたって、魔剣ソウルオブファイアを地面に突き刺した。 「魔剣ソウルオブファイアよ。龍の吐息を飲み込んでしまえ!」 魔剣に宿っていた炎の魂が大きく口を広げて、カイザードラゴンの氷の息吹を吸い取る。 漏れ出したブレスは、それぞれはった結界によって、被害はでなかった。 「はいや!」 パカラパカラ。 ドラゴンホーリーナイトは、それでもカイザードラゴンの周辺を黒い馬で翔ける。 「正気に戻れ、偉大なりしカイザードラゴン。ドラゴンの中のドラゴンよ!」 澄んでいた瞳はにごっていく。 「だめだ。主よ、このカイザードラゴンはもうダメだ。狂っている。せめて、私の手で葬りさってやろう」 「待ってくれ!もう少し、注意をひきつけておいてくれ!攻撃しても構わない」 「了解した。はぁぁぁぁぁぁ!!」 ドラゴンホーリーナイトは、黒いランスでカイザードラゴンを攻撃する。 ゴラゴンホーリーナイトの大きさは、カイザードラゴンの10分の1。十分に巨大だ。 ニールが、ドラゴンの片目を撃ち抜いた。 「キシャアアアアアアアアアアア!!!!」 凄まじい叫び声。 それでも、すぐに瞳は再生し、ギョロリとした爬虫類独特の瞳がティエリアたちを睨みあげる。 「はいや!」 ドラゴンホーリーナイトの黒いランスが、ドラゴンの右足をもぐ。 「ぐるるるるるる」 再び、氷のブレス。 もろに浴びて、ドラゴンホーリーナイトが宙でいてつく。 「いけない。神よ、迷える者に確かなる愛を!アイスレス!(氷解解除)」 アレルヤの魔法を受けて、ドラゴンホーリーナイトの氷は解けていく。 「やばい。おれ・・・・絶望した。えーと。絶望がとまんない」 ライルは絶望しっぱなしだった。 「はぁぁぁ!」 刹那が、カイザードラゴンに切りかかる。 ドラゴンの弱点である額に、魔剣があたるが、それでもカイザードラゴンは止まらない。 「古代のある人は言った。その者の愛は全てではないと。世界は一度失われた。世界に満ちた愛を、愛を、愛を。何度も愛し合うのは種をこえてもかわらない。さぁ、慄くことはない。変革の旋律は訪れた。私の心にも、あなたの心にも。共に生きよう。あなたの手を、私はとる。マリア・オラトリオ(慈愛の聖母の唄)」 「主・・・・それは、禁術!」 「構わない」 「ゲートを開いた。ドラゴンホーリーナイト、帰還を」 「承知した」 「ティエリア・・・知ってる、この魔法。神聖魔法の禁術。唱えれる者はいないと、講義で教わったのに・・・凄い」 アレルヤが、ティエリアの歌声に聞きほれる。 ティエリアの精神は、肉体を離れカイザードラゴンのなかに沈んだ。そこで受けたドラゴンの恐怖。子供である卵を奪われ、密猟で生まれたドラゴンの世界からこちらの人間世界に追いやられた。 「そうか。君は、ずっと子供を捜して・・・・大丈夫、安心して。その卵なら、別大陸で見つかって、王族が威信をかけて、魔法を使えるものたちを集め、ドラゴン界とのゲートを開いて送り返した。母親ドラゴンがいつ襲ってくるかも分からないから。君は、精神にかけられた術のせいで、子供の声が聞こえないだね。今、全て傷を治してあげる。相手を傷つけないと、さっきの呪文は完成しないんだ。痛い思いさせて、ごめんね。愚かな人間たちを許してあげて」 ニールが、ティエリアを抱き上げる。 召還魔法は、それ自体が禁術である。2回も連続で禁術を使ったティエリアは、魔力はあっても体力の消耗が激しかった。 NEXT |