戦いが終わってもう、二年が過ぎた。 真っ赤な薔薇の花束を持ったライルと、白い薔薇の花束をもったティエリア。二人とも、黒のスーツを着ていた。喪服だ。 それぞれ、己が愛した人のために薔薇の花束を捧げる。 ティエリアはニールに、ライルはアニューに。 「どうか、安らかに。愛しています」 ティエリアが、ニールの墓に花を添えて、透明な声で歌いだす。それに釣られるように、ライルもアニューの墓に花を捧げた。 アイルランドを、彼女に見せてあげたかった。アイルランドで、一緒に幸せに暮らしたかった。 それはティエリアも同じ。 「行きましょう」 ティエリアが、鎮魂歌を歌い終わり、ライルの方を振り向く。 「アニュー。愛しているよ」 今一度、自分が彼女のために建てた墓標を見る。 毎週一度は、かかさず墓参りにくる。近くにある教会のミサに出るついでに。 「あなたは、今、幸せですか?」 ティエリアが、車に乗り込み、ハンドルを握ったライルに尋ねる。 「なんで、そう思うんだ?」 「あなたはアニューを愛している」 「それはそうだろう。お前さんだって、兄さんを愛しているだろう」 「そうですね・・・・」 窓を開けて、ティエリアは入ってくる風に髪をなびかせながら、遠くを見ていた。 白皙の美貌は、凍てついたように何年たっても衰えることがない。まるで、氷の花。 兄が愛した恋人、ティエリア。戦いをしている中、アニューに出会う前にその存在が無性で、女性に近いことを知り、必然のように惹かれた。兄の恋人に、恋をした。何度も愛を囁いた。でも、ティエリアはいつでも兄のニールを愛し、そして同時に同じガンダムマイスターである刹那を愛していた。結局、振られた。 それでも、傍にいることを許してくれた。 そして、ライルはアニューと出合った。アニューとティエリアは仲が良かった。イノベイター同士、どこかで惹かれあうものがあったのかもしれない。 ライルは、アニューを綺麗な女性だとは思ったが、まさか彼女に恋をするなんて思ってもいなかった。 アニューに恋をした。今度こそ、愛せる、愛されると思った。現実に愛し、そして愛された。でも、最後は、アニューがイノベイターであることを理由に、仲を引き裂かれた。 引き金を引いた刹那を銃で撃とうとしたこともあった。 でも、そんなことをしても彼女が返ってこないことは知っていた。 イノベイターを叩くことで、彼女を操ったリボンズ・アルマークを殺すことで、復讐は終わった。 終わってしまえば、あっけないものだ。 壮大だった戦いも、平和へと導くための布石として語り継がれるだけのものとなる。 いつからだろうか。 気づくと、ライルはアニューを探していた。 最後に、綺麗な微笑を見せて消えていったアニューの光を。アメジスト色の光を探していた。奇跡のように、アメジストの蝶を象って、墓場でヒラヒラと舞っていた蝶。同じように、ティエリアの前にはニールの瞳の色だったエメラルド色の蝶が舞っていた。 蝶は、それぞれティエリアとライルの周りと舞うと、光に溶けてしまうようにどこかに消えてしまった。 そう、アニューが最後に見せた、あの笑顔と一緒に消えた光の色。 「君を探す」 ティエリアが、ぽつりともらす。 そうだ。 ライルは、ずっとアニューを探しているのだ。魂が、心が。 淡いアメジスト色の髪の女性を見ると、アニューと叫んだ。 心の傷は、塞がらない。時間だけが、経っていく。 それはティエリアも同じように見えて、でもティエリアは少し違った。ニールと名前を呼び、昔のようにたまに泣くことが全くなくなった。当時は刹那に支えられていたが、刹那はいない。中東で、アザディスタン再建のために、皇女マリナと一緒に毎日を過ごしている。 「なぁ。傷の舐めあいみたいじゃね?」 ライルが、ずっと伏せていた言葉を口にする。 そう、ライルとティエリアは、ニールが生まれたアイルランドの生家で一緒に暮らしていた。 お互い、愛しい人をなくしたもの同志が、傷を舐めあうのに、形が似ている。 「私は、そうは思わない」 ティエリアは首を横に振る。 「ついたぜ」 家の前の駐車場についた。ティエリアは、無言で車から降りた。 NEXT |