遙かなる恋姫「カウントゼロ」







「ええと、ガンダムマイスターは俺で最後かな。ロックオン・ストラトスっていうんだ」
ロックオンは、目の前の美しい貴婦人のような少女に、手を伸ばす。
相手は、石榴色の瞳でロックオンを見たあと、同じように手を伸ばして軽く握手する。
「僕は、ティエリア・アーデ。あなたを・・・・ずっとずっと、待っていました」

「え?」

ロックオンは目の前の少女の顔を見る。
見覚えはない。
「俺、あんたとどこかで会ったことあったっけ?」
「いいえ。最後のガンダマイスターの到着をずっと待っていた、そういう意味です」
「なるほど・・・」

ポタポタポタ。
白皙の頬を銀の涙が伝う。

「おい、どうしたんだ?」
「あなたを、ずっとずっと待っていた!何百年も!あなたに出会えることだけを考えていた。長いコースドスリープの眠りの中に、あなたはいつも出てきた。今度こそ、あなたと愛し合える」
「はぁ?」
ロックオンは、泣きついて意味不明な言葉を撒き散らす少女をどうしたものかと困っている。
泣いている子供を邪険にもできないし。

「思い出しませんか」

身近に、石榴の瞳があった。
デジャヴ。
そうだ、自分は遙かなる数百年前、イオリアが生きていた時代にこの少女と出会っている。
ゆっくりと、失っていたはずの魂の記憶が蘇ってくる。

イオリアの下で研究員として働いていたニール。イオリアが夢中になっていた「人工天使」ティエリア・アーデ。
「俺は・・・」
「マスターイオリアは、あなたを愛していた記憶は消さないでいてくれました」
「人工天使、ティエリア?」
「はい。当時はそう呼ばれていました。

それは遠い遠い遙かなる何百年も前の物語。
遙かなる恋姫は、何百年の時をかけて愛しい人とまた巡り合う。
カウントゼロ。
また、ゼロからはじまる愛の物語。

イオリアは、ディランディ家のある女性に遺伝子操作を施した。
隔世遺伝で、当時もニールと呼ばれていた青年と瓜二つの子供が生まれるように。
そして、一族の中でひそやかに伝わる伝承。その容姿の子供が産まれたら、「ニール」と名づけるように。
それが、イオリアの限界。
果たして、ティエリアが再び覚醒した時代に「ニール」が生れているかどうかも分からない。
神の気まぐれだ。
因子はばらまいた。しかし、しょせんは人の手によるもの。
イオリアは神ではない。人工生命体イノベイターを作り出すなど、限りなく神に近かったが。

あとは、全て流転する運命に任させるしかない。
遙かなる恋姫は、再び巡り合う。
愛しい人に。





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