遙かなる恋姫「逃げ出す二人」







そのまま、数ヶ月一緒に研究を続けた。
その時点で、イオリアは恐れていた。ティエリアが、ニールに恋をするのではないかと。もしくは、ニールはティエリアに恋をするのではないかと。
女性の人格として作ったことは失敗だったかもしれない。

「リボンズ・アルマーク・・・・イオリアの壮大なる計画の遂行者」
ティエリアは、カプセルの中で漂う、緑の髪に紫の瞳の少年を見ていた。
イオリアは言っていた。いずれ、ティエリアをコールドスリープにかけ、ガンダムマイスターとなるべく数百年の眠りにつかせるのだと。
マスターの言葉は絶対だ。
でも、なぜか哀しかった。

「数百年の眠りの先に・・・・ニールはいない」
一人知れず、涙を零す。
すでに、惹かれてしまった。
イノベイターは、人間に恋をしてはいけないと、あれほどイオリアに言われていたのに。もう、後の祭りだ。
イオリアの病状は悪化する。薬を飲んでも発作はおさまらず、吐血する。

イオリアは、自分のクローンを作ろうとはしなかった。
クローンはあくまでクローン。オリジナルの意志に従う可能性は薄い。
ティエリアの翼を、イオリアは手術で跡形もなくとってしまった。そして、肩甲骨に、翼をもっていた証である紋章を刻む。
「イオリア・・・どうして、私の翼を?」
「この閉鎖された空間ならいい。だが、数百年後には、ティエリア、お前はガンダムマイスターの一人として目覚め、また覚醒するのだよ。人間に、天使の翼などないだろう」
「そうなのですか?」
ティエリアは、人間に関しては無知だった。

接触した人間が、イオリアとニールだけであるからだ。
「ニール・・・・・何を?」
ティエリアが翼をもぎ取られ、再生治療を受けたその日の夜、ニールはティエリアの寝室に訪れた。
「逃げよう」
「え?」
「このままイオリアの人形になるつもりか?」
「それは。マスターは、よくしてくれます。私を、大切に」
「だったらなんで、コールドスリープにかけて、何百年も後に目覚めさせようとする」
「それは、ガンダムマイスターになるためで」

「俺が、お前を守るから」
「ニール」
その言葉だけで、ティエリアは十分だった。

ティエリアは、イオリアの研究所を抜け出し、ニールと逃げ出した。
けれど、しょせんはイオリアの作った人工生命体。
場所はすぐにばれてしまった。

「ティエリアを返しなさい、ニール」
「いやだ。この子は、人間だ。あんたの都合で、コールドスリープにかけたり・・・そんなの、本当に人形じゃないか」
「ニール・・・いいだろう。ティエリアを託そう。だが、半年だけだ。あと一年も私の寿命はもたない。私は、その子を娘のように愛している。だが、大切な研究員でもあった。人としての愛を、十分に注いではやれなかった。半年の間だけ、ティエリアを人間として生きることを許そう」
「マスター・・・」
ティエリアが、イオリアに抱きつく。
「半年しか時間をあげれない私を許しておくれ。ニールと幸せにおなり」
それが、イオリアと交わした最後の言葉となった。




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