それは、ティエリアとニールが暮らし始めてから、半年がたった日のこと。 ニールがイオリアの研究所に久しぶりに出かけると、イオリアは自らをコールドスリープにかけ、そしてそのカプセルの近くに遺書があった。 (これは、ただのコールドスリープではない。私はすでにこの中に入って数日に命が尽きるだろう。クローンを作らなかったのは、私のミスでもなく、私の意志である。どうか、数百年後に私の肉体が再び蘇ることを祈る) 「まじか・・・イオリア・シュヘンベルグ」 何重にも慎重にカプセルを重ねたその中にあるイオリアの命はすでに尽きているという。 (ニールへ。君へティエリアを託す。本当は、数百年後のきたる世界に、ガンダムマイスターとしてコールドスリープにかけたかったが、仕方ない。あの子の笑顔は、私の喜びだ。このまま、共に生きてやってくれ) 遺書の最後に、サインがされてあった。それは涙をこぼしたのだろうか、水で薄く滲んでいた。 「誓います。イオリア・シュヘンベルグ。偉大なる科学者よ。あなたが愛した娘、人工天使のティエリア・アーデはこのニールが命をもっても守り、愛し、そして幸福にすると」 ニールは研究所を後にした。研究所は、入り口が複雑で地下にあり、そう簡単に発見されるようにはできておらず、ニールでさえ未だに迷子になりそうな仕組みになっていた。 家に帰ると、ティエリアが泣いていた。 「ティエリア?」 「マスター・イオリアシュヘンベルグが死んだのですね」 「どうしてそれを」 「私は、マスターに作られた人工天使です。でも、同時にマスターの娘でもあったのです」 ティエリアは歌った。そのあまりの美しい声に、ニールが驚いた。 奇跡の歌姫。 その日から、ティエリアはそう呼ばれるようになった。 彼女が歌うと、花が咲き、人の病気や怪我が治るのだ。噂はすぐに広まり、ティエリアを使って金もうけをしようとたくらんだグループに拉致されかけたりと、ニールは知らない間にティエリアを危険に晒していた。 治安のよい国として有名な国に引越した。 そこで、ティエリアに歌う行為を禁止した。ティエリアは泣いていた。 彼女にとって、イオリアのラボで歌う行為は当たり前で、イオリアの彼女の歌声をよく聞いていた。 だが、人の怪我や病気を治すような効果をもっているのであれば、別問題だ。身に危険がつきまとう。花を咲かせる、ただそれだけならよかったのに。 ティエリアは、地下室でひっそりと歌うようになった。 それでも、まだニールとティエリアは幸せだった。 一緒に暮らせているから。一緒に眠り、食事をし、散歩に出かけ・・・。 人の歴史は、いつも争いで狂う。 人の愛は、争いの前では無力だ。だからこそ、イオリア・シュヘンベルグはガンダムという当時の科学では到底つくりきれないものを、理論としてまとめ後の世界に託したのだろう。 そして、衝撃のニュースが飛び交う。 第三次世界大戦の勃発であった。 ニールはスナイパーとしても有名であった。そして、ニールのところに特別兵士としての徴兵命令が書かれた紙がやってきた。 ティエリアは、全てを捨ててニールと逃げた。 NEXT |