無論、国からの徴兵命令は絶対であった。 逃げ出したティエリアとニールは、ニールがティエリアを逃がすために大佐級の軍人を殺したことにより、住んでいた平和なはずの国で賞金首にまでなっていた。 そしてティエリアに治癒の不思議な能力があることが知れ、ティエリアは生きて捕まえること、ニールの生死は不問となっていた。 「いいから、逃げて。いいから、私はいいから!」 足を撃ちぬかれ、走ることのできなくなったティエリアを、ニールが背負う。 「誰が、愛してる相手を見捨てていくかよ」 ここ二日まともに食事をとっていない。かろうじで水を飲んだくらいだ。体が鉛のように重い。持っていた銃の銃弾はすでに尽きてしまった。 「いたぞ、こっちだ」 兵士たちは、人間を公に狩れるこの行為に酔っていた。 ティエリアの足の傷の手当てはした。ティエリアの歌の不思議な治癒の力は、なぜか全くの赤の他人しかきかないようで、ニールや自分自身の体にはきかなかった。 「痛い・・・」 ティエリアの足の傷口が、乱暴に背負って移動していることで開いてしまった。 真紅が流れ、地面に跡が続く。 「ねぇ。どうして、だろうね?どうして、人は争いをするんだろうね?ニールは私を逃がそうとしてくれただけなのに・・・・確かに人を殺してしまった。だからって、普通に投降を呼びかけることもないなんて・・・これ「狩り」なんだって。公式の。賞金首で、生死不問になったものは「狩り」の対象になる・・・ねぇ、ニール」 「し、静かに。今、足の傷口の手当てするから」 「第三次世界対戦なんて・・・この国は、平和だったはずなのに、ねぇ、ニール。愛してるよ」 ティエリアは涙を零して、自分からはじめてニールの唇に深くキスをした。 「ねぇ、ニール。囲まれてる」 「突破してみせる。俺も愛してる、ティエリア」 「ねぇ、ニール。約束、して?」 「何を?」 「いつか、この世界でもう一度出会って、愛し合うって」 「ティエリア・・・・」 「このままだと、あなたは殺されてしまう。嫌だよ、私、あなたがいなくちゃ生きていけない・・・」 「俺もだ。愛してるから・・・・・」 二人は、抱きしめあった。 ティエリアの体から、淡い光が漏れる。 「約束、だよ」 「ああ、約束だ」 ザッザッザッザ。草むらをかき分ける音がして、パァンと乾いた銃声が響いた。 それは、ニールの右肩を撃った。 「いやああああああああああああ!!」 悲鳴の中、いくつもの銃声が聞こえ、ニールはまるで銃の的のようにいくつもの銃弾を浴びる。 「約束、だから。いつかまた、この世界であって、愛し合おう。愛してる、ティエ・・・・」 「あああああ・・・・・」 ニールは、エメラルドの瞳をあけたまま、動かなくなった。 絶望。 「お前は、こっちだ」 兵士の一人に乱暴に肩を掴まれる。ニールの遺体を蹴る兵士。 「ったく、手間とらせやがって」 ティエリアは、歌いだす。 「なんだ?壊れたか?」 瞳が金色に光っていた。その歌声はとても鈍く、まるで地獄からの叫び声。 聞いた者全てが、発狂した。 「ニール。約束、だよ。いつかこの世界で、もう一度、愛し合うって」 ティエリアは涙を流して、ニールの開いたままのエメラルドの瞳をゆっくり手で閉ざす。 そして、深くキスをする。 幾つもの涙が零れた。 ティエリアは、歌いだす。淡い金色の光がティエリアを包んだ。 すでに、賞金ハンターたちは皆発狂して失神していた。 天使の怒りに触れたから。 NEXT |