ティエリアは、ニールの遺体を大事そうに抱いて、歌いだした。 体が金色に発光する。ポッ、ポッと、いくつもの、まるでホタルが飛んでいるように。 綺麗なその声は、まさに天使。 しゅるるるると、緑の天蓋が広がった。 そして、ニールは咲き乱れた花の中に埋もれていく。深く深く、花びらの海に。 それから、どうやってティエリアは自分がイオリアの研究所に戻ったのか覚えていなかった。 ただ、途中で何人も銃で撃ち殺した記憶だけが残っている。 誰もが、ニールを賞金首にあげた者たちだった。 「私は、ガンダムマイスター・ティエリア・アーデ」 一番地下深くのカプセルの前にくる。ティエリア・アーデとプレートネームが刻まれていたカプセルの中は空っぽだった。イオリアが、ニールと生きることを許してくれたお陰だった。 幸せだった。僅か二年にも満たない愛であったが、一緒に暮らせて幸せだった。 ティエリアはドロドロだった衣服を脱ぎ捨てると、全裸になった。 「イオリア・・・マスター・・・どうか、導いてください。今度目覚める時、私がまたニールに出会えるように。また愛し合えるように。ニール。信じています。数百年後、目覚める世界にあなたが私の傍にいることを。誰よりもあなたを愛しています。」 裸足で、カプセルのハッチを開けると、ティエリアは目を瞑る。 黄金の羊水が満ちてくる。 コールドスリープを兼ね備えた深く長い眠り。 今度の世界では、どうか、争いのない世界であるように。もしもあれば、それを根絶したい。 ふっと金色の瞳が開く。 エメラルドの光をまとった、ニールがカプセルの前に立っていた。 ティエリアは、カプセルの中から手を伸ばす。 エメラルド色に光るニールは、カプセルごしにティエリアとキスをすると、優しく微笑してエメラルドの光となって少しづつ溶けていく。 (ガンダムマイスターに、今度はなってるから。遠い遠い未来だけど。先に、いってるな) 「はい・・・・愛しています、ニール。私は強くなりたい。今度目覚めた時は、男性になります。ニールを守れるくらいに強く、強く・・・・」 そっと、カプセルごしにキスをして、ティエリアの意識はそこでとだえた。カプセルの黄金の人工羊水の中で、胎児のように丸くなって、深い眠りにつく。いつか、ガンダムマイスターとして目覚めるために。 きたるべき日まで、夢をみていよう。 マスター・イオリアは、カプセルに入れば生前の記憶は全て失われるといっていた。 でも、どうしてだろうか。 そんな気がしない。 イオリアは、どこまでもティエリアを娘として愛していた。周りからはティエリアはイオリアの人形と呼ばれていたが、実際は違ったのだ。 親子の愛があった。 ニール。 ニール。 待っていて。 次に会う時は、治癒の能力なんて、争いのもとになるものは全て捨てていくから。 自分のことを自分で守れるくらいに強くなってみせるから。 だから、もう一度会おう。 この世界では、ニールとの愛はニールの死という不幸な結果で終わったけれど。 どうかどうか、次の世界ではニールと穏かに愛し合えますように。 それは、遙かなる恋姫。 何百年も、愛しい人に巡り合うために眠り続ける歌姫。 NEXT |