血と聖水「ロードヴァンパイア」







「あの、戻りました」
ティエリアは、ドアを開けると寝室にあがり、棺おけに眠らずにベッドに寝ることが好きな、自分のマスターであるロックオンの様子を見にきた。
通常、ヴァンパイアハンターにマスターなどいない。マスターとは、ヴァンパイアが血族にするために選んだ者に血を与え、新しくヴァンパイアとなったものが父たる存在に対しての呼称であった。
ティエリアとそしてリジェネは、ヴァンパイアハンターであると同時にヴァンパイアだった。人が、ヴァンパイアに対抗するために生み出した人工ヴァンパイア「イノベイター」
イノベイターはヴァンパイアの弱点を取り除いた、人が作り出した人工のロードヴァンパイアだ。

ティエリアは、イノベイターでありながら、ロックオンという今のマスターに血液を与えられ、ヴァンパイアにされた。元々人工ヴァンパイアなのだから、今更ヴァンパイアになったところでなんのかわりもない。
「ロック・・・オン?」
マスターであるロックオンは優しい普通の青年に見えて、実はロードヴァンパイアだった。ティエリアはAランクのヴァンパイアに襲われていたところを助けられ、いろいろあって、血族として仲間にされてしまった。
「にゃあ」
「フェンリル・・・」
真っ白な純白の狼が、猫の泣き声をあげて、ベッドから落っこちているロックオンの頭をかじった。
「ああ、だめだって、フェンリル!それ、食べ物じゃないから。ぺっしなさい、ぺって」
ティエリアはおろおろしている。
フェンリルはおいしそうにロックオンの頭をかじっていた。氷の精霊だけに、かじった部分から氷になっていく。
「こらーー!!」
「にゃあああああああああ!!」
「わああああ!!」
ロックオンが、怒声をあげて起き上がった。
フェンリルの首根っこを捕まえて、抱きあげる。
「よ、おかえり」
「ただいま、ロックオン」
「その首の怪我は?」
「その、血を吸われました」
「またか」
「にゃーにゃー」
フェンリルは、もともとは抱き上げることもできないほどに巨大であるのだが、実体化すると猫くらいの大きさになってしまう。他の使役者が呼び、実体化した場合は普通の狼の大きさだ。猫の大きさなのは、フェンリルの気まぐれであった。ちなみに、ティエリアのフェンリルはにゃーにゃー鳴いて、よく他のヴァンパイアハンターからバカにされていた。

「傷、見せてみろ」
「いいです。自分で処置します」
「だめだ。俺の血を与えたお前の血を飲んだヴァンパイアは災難だったな。硫酸を飲むようなもんだ・・・」
ぐーぎゅるるるるる。
ロックオンのおなかが大きくなった。
「ロックオン。食事を作りますか?」
「んー。最近血飲んでないな」
ギクリと、ティエリアが固まる。
マスターであっても、人を襲うようなことがあれば退治しなければならない。だが、ティエリアと契約で人を襲わないことになっている。かわりに、人工ヴァンパイアの自分の血を吸うようにと。
「あ・・・ぐ・・・・」
ロックオンの牙が、ティエリアの首筋を噛む。遠慮もなしに吸われた。
「いあ・・・」
吸血鬼の吸血行為は、SEXに似ている。倒錯感を覚える。快感をえるために、仲間同士で吸血することもある。

「にゃあ」
フェンリルが、使役者であるティエリアを心配そうに見ていた。
「ごちそうさま」
「どうも・・・・」
快感を引きずりながら、ティエリアの傷口が塞がっていく。吸血行為をされたあとは、貧血にならないようにまず傷口を塞ぎ、それから人工血液剤を噛み砕いた。
「北のディアエルが死にました」
ティエリアは、人工血液剤を飲みながら、ロックオンに話す。
「へぇ。あのディアエルが殺されたとなると・・・そうとうな大物だな。今日の獲物・・・この灰の色からするとランク
C。まぁ、雑魚か」
北のディアエルとは一流で七つ星を持っている最高クラスのヴァンパイアハンターの名だった。
「雑魚で悪かったですね。どうせ、僕は10年もヴァンパイアハンターしてるのに字ももらえないし未だに仲間からバカにされてます・・・で・・・敵討ちに向かった同じく七つ星のヴァンパイアハンターが、ヴァンピールになって帰ってきたそうです」
あまり興味もなさそうに、猫じゃらしでフェンリルと戯れていたロックオンが、フェンリルを抱き寄せる。
「ロードか・・・マスタークラスだな。ハンター協会から命令は?」
「ありました。リジェネはロードのリボンズ・アルマークから受けた傷の治療中です。ロードから傷を受けると通常の細胞活性化では治りにくい。協会側は、リジェネを指名しましたが、負傷中で出れません。イノベイターは、もう残っているのは僕とリジェネと刹那だけだ。協会側は、刹那と僕を指名しました」
「まあ、妥当な判断か」
「僕の腕では、対処しきれません。どうか、協力を仰ぎます」
「ランクCに吸血されて相当頭きてる?処女なんて、俺と出合ったときにとっくの昔に食われちまってるのにな」
明るく笑うロックオンに、ティエリアは紅くなった。
無性であるティエリアは、はじめて出合ったロードクラスのヴァンパイアロックオンに吸血され、ついでに食われた。無性であるため、処女云々は関係ないらしい。ロックオンに血族にまでされたティエリアとロックオンはもう十年の付き合いだ。
ロックオンは人を襲わないかわりにティエリアの血を飲み、そしてかわりにティエリアの力となる。そう契約をかわした。ロックオンは、ティエリアの最大の使役魔でもあった。

「血と聖水の名において、ロックオン・ストラトス、私の任務に同行せよ」
血でかかれた契約の証がロックオンの額に浮かんで、消えた。


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