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エメラルドの彼方に沈んでいく。
重力はない。深い闇の底に、エメラルドの光がホタルの群れのように点滅している。
ふと訪れる漆黒。
全てを纏うのは、運命を凌駕した光たち。
誰にも見取られることなく、その人はひっそりと息を引き取っていく。
深い深い闇に沈みながら。
見開かれたままのエメラルドの瞳は、額から流れ出た血とそして涙が混じっていた。
宙に浮かぶ、涙の雫。
「ごめんな・・・・・約束したのに・・・・置いていってごめんな。愛してる・・・・よ・・・・・」
ノーマルスーツの中の酸素量が減っていく。
最期に、地球を見た。
蒼い蒼い星。
この星を守りたいと、世界を変えたいと思った。
そして一緒に歩んでいくのだと約束した。最後まで、ずっと一緒に生きて歩いて未来を掴み取るのだと。
地球に手を伸ばす。
届かない。
また涙が溢れた。
「地球・・・・アイルランド・・・・・故郷をみせるって約束した・・・・」
走馬灯が走る。
最後に浮かんだのは、愛した人の笑顔。
笑顔が、あの子にはよく似合った。
光の手が、その人の体をすくいあげる。
「ティエ・・・・リア・・・・」
光の天使が、その人を抱きしめる。
その人は、微笑んだ。
伸ばした手に、手が重ねられる。
待っていて。
今すぐ、傍にいくから。
エメラルドの瞳が閉じる。
もう、何も映さないから。
エメラルド色の蝶が、ヒラヒラとその人の体の周りを舞う。
どうか、この想いが伝わるように舞い踊る。
その人は微笑んでいた。
とても優しい微笑を。
それはエメラルドの彼方。
光の河岸。
その人は打ち上げられる。
エメラルドの彼方にある光の河岸に、その人は流れ着く。
ヒラヒラと、無数のエメラルド色の蝶がその人を包み込むように優しく舞い踊る。
沈んでいく意識が浮上する。
光の河岸に真実を残したまま。
エメラルド色の蝶の群れは、緩やかにゆっくりと燐粉を落としながら光の河岸を離れる。
エメラルドの彼方。
彼は、優しく微笑んでいた。
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