デュナメスのコックピットで、ハロが何度も呟く。 「ロックオン、ロックオン」 ゆっくりとエメラルドの光の蝶が一匹、ハロに止まった。 「ロックオン?」 伸ばされる手は、血に染まっていた。 エメラルド色の蝶は、光の雫となって消える。 「ハロ、ご苦労様・・・・」 血を拭って、ロックオンはデュナメスのハッチをあける。 ふらつく体を叱咤する。 「ロックオン!!」 「フェルト・・・・」 何度あけようとしてもあかなかったデュナメスのコックピットのハッチが、やっと開いた。中にロックオンはいないと思っていたフェルトは、涙を流した。 「よかった・・・・無事だったのね。見ての通り、トレミーは大破してほとんど機能していないわ。アレルヤと刹那は行方不明で・・・ティエリアのヴァーチェも回収されたけど、重症なの。きゃあ、凄い血!早く、医務施設へ!」 そこは、CBの宇宙ステーションだ。 大破したトレミーはCBの宇宙ステーションのメンバーが回収した。 どこを探しても、アレルヤのキュリオスと刹那のエクシアは結局発見されず、戦死という結果が出された。 大破したトレミー。 死んでしまった仲間たち。 ガンダムマイスターの中で、唯一生存が確認されていたのはティエリアだけだった。 重症を負い、集中治療室に運ばれた。一度は心肺停止したが、医師たちの蘇生によりなんとか持ち直した。 タンカーが運び込まれてきた。 重症のロックオンが集中治療室に運ばれる。 人工呼吸器をつけられたロックオンは、治療室に運ばれる前、フェルトにこういった。 「エメラルドの彼方」と。 その言葉が意味するものがなんなのか、フェルトには分からなかった。 フェルト自身、クリスティナとリヒティの死で涙が止まらない状態だった。追い討ちをかけるように、ティエリアが心肺停止状態になり、フェルトは泣き叫んだ。 ティエリアは持ち直した。 そして、フェルトは開かないままのデュナメスのコックピットを思い出した。中は無人だろうが、それでもせめてハロくらいは外に出してやりたかった。まさか、ロックオンが生きて中にいたとは思わなかった。 「奇跡だわ・・・・」 フェルトは神に感謝した。 フェルトはロックオンに恋をしていたのだ。ティエリアと恋人同士なのは知っていたし、仲を引き裂くような真似をすることはなかったが、それでも長い間ずっと密かに慕っていた。 集中治療室に運ばれ、緊急のオペが終わったロックオンは、包帯を全身に巻いて、治療カプセルの中に入れられた。 隣には、同じように全身に包帯を巻かれ、意識不明のティエリアが入れられ、中で人工呼吸器をつけられ、眠っていた。心電図がすぐ近くにあり、点滴の管が白く細い手に繋がっていた。 「ティエリア、生きろ。ここにいるから。だから、生きろ」 ロックオンは、カプセルの中で、隣で眠る意識不明のティエリアに何度も話しかけた。 心肺停止時間が長かったため、脳死寸前だった。 他のトレミーのメンバーもそれぞれ治療を受けている。 ミス・スメラギは治療を受けたあと、すぐに地球に向けてのシャトルに乗って、全てから逃げるようにCBを去っていった。 長い間、治療カプセルに入っていた。右目の再生治療も受けた。 ティエリアは、以前と深い昏睡状態のまま、目を覚ます気配はなかった。 「ティエリア、オキテ、ティエリア、オキテ」 ハロが、ティエリアの入った治療カプセルの周りを飛び跳ねる。 やがて、ロックオンの右目の再生治療が終わり、ロックオンはカプセルから出ることができた。まだ、運動などは絶対禁止だし、投薬治療が続くだろう。 とりあえずの傷は、最新医療技術によって塞がった。 「なぁ。起きろよ、ティエリア。一緒に、歩いていくんだろう?」 何度も何度も、ロックオンはティエリアに話しかける。 フェルトも、イアンも、ラッセも。みんな、ティエリアに話しかける。 眠り姫の眠りを覚まそう。みんな、ティエリアに声をかける。ロックオンは完全に死んだものと、フェルトだけでなく他のメンバーも思っていたようで、ロックオンの生存は皆を喜ばした。そして何より、ティエリアが目覚めるきっかけになるだろうと。 ティエリアは、ロックオンが死んだものと思い込み、覚醒を拒否していた。 NEXT |