「ティエリア、起きろよ」 何十回目かの呼びかけだった。 ロックオンがカプセルに出てから、もう10日が経過していた。 ピクリと、ティエリアの手がかすかに動いた。 「ティエリア。俺が、お前を守るから」 カプセルごしに、何度も話しかける。 白い包帯はもう外され、傷は完全に癒えていた。点滴の針だけが、白い手首に痛々しく突き刺さっていた。 「だから、起きてくれ。俺はここにいるから」 ゆっくりと、石榴の瞳が開かれる。 その瞳は、始め何も映していなかった。やがて、数度瞬きをする。じっと天井を見上げていた。 「僕は・・・・あなたの元にいけなかったのか」 「ティエリア」 カプセルを勝手にあけ、ロックオンはティエリアを抱きしめた。 「・・・・・・?幻ですか」 「ちゃんといるよ。傍にいるから」 何度も、ティエリアは確かめるようにロックオンの体を触る。 そして、ロックオンがはめているペアリングを確認して、ティエリアは初めて嗚咽を漏らした。 「あああああ・・・・・・うわあああああああ」 「大丈夫だから。ティエリア、愛している」 「うわああああああ」 それは号泣に変わった。 何事かとかけつけた医師は、その光景に安堵のため息を漏らす。 「良かった・・・・」 花瓶の水を変えにいっていたフェルトは、ティエリアが覚醒したとしって、涙を零した。ロックオンだっている。また、みんなで力を合わせてCBを立て直していこう。 死んでいった者の死を、無駄にはできない。 もう一度、立ち上がろう。 それは、トレミーに乗っていたクルー全ての意志でもあった。 ティエリアは傷が癒えたものの、精神的ショックが激しいせいで、そのまま数日まだカプセルの中で過ごすこととなった。 「ほら。ティエリア、ハロだぞ」 「ハロさん・・・・」 「ティエリア、ゲンキダセ、ティエリア、ゲンキダセ」 ロックオンは普通の生活区に移り、暮らし始めた。他のクルーたちもだ。 すでに、イアンを中心としたメンバーで、新しいガンダムの開発と大破したトレミーを基礎として新しいトレミーの建造がはじまっていた。 「なぁ、ちょっと時間あるか」 「イアン、どうした?」 「あのな、デュナメスのコックピットから、異常な数値のGN粒子が検出された。何か心当たりはないか?」 「さぁ?俺には分からない」 ロックオンは本当に分からないようで、首を横に振った。 「GN粒子っていっても、何か変なんだ。今まで検出されたことのない・・・・」 「んなこと、俺にいわれてもなぁ」 「それもそうだよな。すまん、変なことで呼び止めて。それから、お前さんの新しい機体の名前が決まったぞ。ケルヴィムだ。ティエリアのはセラヴィ。フェルトが名づけたんだ」 「そうか。後で、フェルトのところに顔だしとくよ」 「そうしてやってくれ。フェルトのやつ、がんばってるけどまだ子供だし、泣くに泣けないみたいだからな」 「ティエリア、ほら見て。リンダさんのラボで育てられてる花よ」 「ああ・・・・綺麗だな。フェルトに似合いそうだ」 「もう、ティエリアったら」 ティエリアとフェルトは、元々仲は悪くなかったが、フェルトはガンダム開発で何かと呼び出されたりで、まだ半分臥せっているティエリアの看病をしてくれて、いつの間にかとても仲がよくなっていた。 「ティエリア」 「ロックオン!」 ティエリアが顔を上げる。 再生治療で完全に塞がったはずの傷が再び開いたりと、ティエリアはまだ調子が悪い。 ロックオンは、ティエリアを抱きしめる。ティエリアはとても嬉しそうに、ロックオンに抱きしめられていた。 「はやく、よくなろうな」 「はい」 ティエリアの顔は、生きる希望でいっぱいだった。 ただ、イノベイターという人工生命体のせいか、一度死に陥ると何がおこるか分からないので、傷が完治してもまだしばらくの間は様子見ということで、絶対安静を余儀なくされているティエリア。現に、肺の傷が塞がっていたはずなのに開き、この間吐血した。医師たちも、ティエリアに関しては通常医学では考えられないことが起こる可能性があるので、ピリピリしている。 まだまだ、ベッドから抜け出せそうにない。 「あ、フェルト。ガンダムの名前、考えてくれてありがとな。かっこよかったぜ」 ロックオンは、フェルトをティエリアの病室から連れ出した。 「な。がんばったな」 ロックオンの大きな手に頭を撫でられ、優しく抱きしめられて、フェルトの顔が歪んだ。 「うう・・・・ああああああ、あああああああああ」 「がんばった・・・・」 「クリスティナとリヒティが・・・うわああああ」 フェルトは、ティエリアを不安にさせてはいけないとずっと見せずにいた涙を、ようやく思い切り流すことができた。 NEXT |