ヴェーダの一部となり、長い眠りについていたはずのティエリアの意識体の一部は目覚めた。 一緒に眠っていたはずの、ロックオンが隣にいない。 何処を探しても、見当たらない。 「ロックオン?どこですか」 ティエリアは、何もない世界でただひたすらにロックオンの魂を探す。 彼は、もうずっと自分の傍にいてくれるものだと思っていたのに。 天に還ってしまったのだろうか。 白亜の世界。白いベッド。乱れた白いシーツ。 眠っていたティエリアは、ベッドから降りた。 「ロックオン?」 ずっと、一緒に今度こそいられるのだと思った。長い眠りに一緒について、人類が異種と対話するその時まで眠りにつくのだと。 一緒に抱きしめあって、ティエリアの意識体が作り上げた天蓋つきのベッドで眠りについた。 「もう、離れないから」 ロックオンは、そう言っていた。 ロックオンの魂と、ティエリアはイノベイドとして覚醒し、意識体となったことで会話をすることができるようになった。それまで見えなかったロックオンの魂が、はっきりと見える。 人の魂は、そう、意識体にとても近い。 肉体のない、精神だけの存在。それは、存在するのかしないのかさえはっきりとしない。 けれど、存在する。だって、ロックオンの魂はちゃんとティエリアの傍にいつもあって、見守っていてくれたから。 「愛している」 「愛しています」 眠りにつく前、互いに愛を囁きあって、何度も唇を重ねた。 肉体はない。そう、精神世界で作り上げられた虚構の体。 透き通っていて、物質世界に影響を及ぼすことはほぼできない。 ロックオンの目は、あの時のまま時間を止めている。隻眼。眼帯の下に、右目はない。 ロックオンの愛は偽りではない。 確かに、約束した。 もう二度と離れないと。 物質世界ではもう会えない。せめて、精神世界で一緒にいたい。天に昇るのが魂の宿命であるのを、ロックオンはずっとティエリアの傍にいて、掟をずっと破っていた。 まさか、強制的に連れて行かれたのだろうか。 「ロックオン・・・・」 ティエリアは、涙を一人で流した。 「また、消えてしまったのですか」 こんなにも愛しているのに。 なぜ、一緒にいられないのだろうか。 人として、生きることを選び、意識体のほぼ全てを物質世界に残したせいだろうか。 ヒラヒラヒラ。 エメラルド色の蝶が、何処からか現れる。 それは、ティエリアの意識体を導くように、飛んでいく。 ティエリアは、意識体の一部を物質世界に戻した。 そして、物質世界でティエリアは目覚めた。 NEXT |