エメラルドの彼方UB







「ん・・・・」
刹那のベッドで眠っていたティエリアは、目覚めた。
「ロックオン・・・・」
「どうした。眠れないのか?」
隣に眠っていた刹那が、心配そうに覗きこんでくる。

ティエリアとリジェネは、意識体となり、スペアの肉体にその意識体を宿らせて物質世界で再び生きている。一度は肉体は滅びたが、イノベイドの力は計り知れない。
肉体のスペアがある限り、生きることが可能なのだ。
そう、意識体が「死」という「消滅」を望まない限り。

刹那の手が伸びて、ティエリアの髪を撫でる。
「刹那。眠っていた僕の意識体の一部が戻ってきた」
「どうしてだ?」
「ロックオンの魂がいなくなった」
刹那には、イノベイドの力も意識体の一部が異種との対話のために、眠っていることも、そしてロックオンの魂に出会い、一緒に眠りについたことも話している。
ロックオンの魂は物質世界で存在していた。魂だけの存在でも、もう一度出会えてどれほど嬉しかったことか。
だが、一緒に生きることはできない。
意識体として長く物質世界に留まるにも、流石のティエリアにも限界がある。ヴェーダと一体化しているとはいえ、無限ともいえる時間を過ごさねばならぬのだ。
精神がまずもたない。
だから、眠りを選んだ。ロックオンの魂も、そこに在るというだけで、ほぼ眠っているような状態だった。そうでもしないと、物質世界には存在できないのだ。
本来、物質世界にあるべきものではない、魂というものは。

「また、僕を置いていってしまった・・・・」
ティエリアは、涙を零した。
「大丈夫だ。ロックオンを信じろ。必ず戻ってくる」
不思議と、イノベイターの純粋種として覚醒した刹那の言葉は説得力があった。
金色に光る刹那の瞳。ティエリアの瞳も金色だ。

リジェネは、与えられたトレミーの部屋で一人で寝ている。
ティエリアは、リジェネと一緒によく寝たが、昔のように刹那とも一緒に眠ることも多い。
ティエリアは愛されている。刹那にも、リジェネにも。そう、それは恋愛感情だ。刹那との関係は完全な恋愛感情かどうかは、今は分からない。戦っていた頃は、擬似恋人の擬似恋愛関係で、それはさらに進行して恋愛関係になったが、恋人同士ではなかった。
だが、刹那はティエリアを守っている。リジェネと一緒に。

CBは、世界に紛争が起こればまた武力介入する。トレミーは、地球のCBの基地を廻りながら、今は世界情勢を見守っている形だ。
最後の戦いでボロボロになったガンダムは修理され、巡礼の旅に出ていたアレルヤとマリーも戻ってきた。ライルはガンダムマイスターとして一生を過ごすことを決めた。刹那もだ。
そして、ティエリアも。リジェネは新しくガンダムマイスターとしてトレミーに乗り込んだ。月の隠された基地に、すでに自分専用のガンダム「アーク」なるものを作っており、それの収容もすんだ。

今は、平和な世界をトレミーに乗ったガンダムマイスターたちは見守り、つかの間の平穏を過ごしていた。

「ロックオン、何処に?」

ヒラヒラと、精神世界で飛んでいたエメラルドの蝶が、物質世界の刹那の部屋に現れた。
「これは・・・・」
刹那が驚く。
「ロックオン?」
蝶は、ティエリアの手に止まると、またヒラヒラと飛んでいってしまった。
ティエリアはそれを追いかける。
刹那は止めない。

ロックオンのことを、ティエリアが誰よりも愛していることを一番理解しているのは刹那だった。

NEXT