ヒラリと、自室のベッドに蹲って泣き伏せるティエリアの髪に、エメラルド色の蝶がとまった。 「いるのですか?」 物質世界で、意識体ではないティエリアには、ロックオンの魂は見えない。 「何処ですか。それとも、本当にいなくなってしまったの?僕に何も言わないで、またあの時のように」 もう、あんな絶望は味わいたくない。 あんな孤独はもう。 嫌だ。 「ニール、愛しています。あなたは、僕を愛して・・・くれているのではなかったのですか」 精神世界で、何度もニールはティエリアに愛していると囁いてくれた。 そう、失った時間の分だけ。 四年間、夢を見ていた。 ティエリアは、ニールが生きて自分を支えてくれている夢を。 それは、ニールが起こした奇跡。 ニールは生きていたとずっと信じていた。けれど、現実は彼はとっくの昔の四年前に死んでいたのだ。 ロックオンが歪めていた事象が全て元に戻り、それからもうどれだけの年月が流れただろう。 最後の別れのとき、泣き叫んだ。半狂乱に。取り乱して。 そして、ロックオンは「刹那に、託す」と残してこの物質世界から完全に消えてしまった。 精神世界で、また出会えた。 もう、物質世界で愛し合うことはできない。精神世界でも、存在し続けることに限界がある。 「ロック・・・オン」 エメラルドの蝶が、また飛んでいく。 それは無数の数となり、光を放った。 ティエリアは、眩しくて眩しくて目があけていられなくなり、思わず目を瞑る。 ゆっくりと、頬に手が添えられる感触があった。 「暖かい」 ティエリアは目を閉じたまま、その懐かしい手に手を重ねる。 「愛しています。消える時は、どうか、僕も今度こそ連れて行って。僕も消えます。あなたのいない世界なんて、生きていても意味がないのだと、ずっとずっと我慢して、それでも生きていたのです。仲間がいるから、生きていました。でも、あなたのいない世界で生きることは、拷問だ」 ティエリアは、新しい涙を零す。 そう、ロックオンがいなくなってティエリアは涙もろくなった。 一人の人間として精神が成長した分、情緒不安定になった。それを、いつも刹那が支えてくれた。 「愛は、与えてくれるだけでなく、失ってしまう。それでも、愛しているのです・・・・こんな感情、あなたを失うくらいなら知りたくなかった」 「愛してるよ」 「僕も、愛しています」 「愛してるよ、ティエリア」 光が止んだ。 ギシリと、ベッドが人の重みで軋む。 「?」 ティエリアは目を空ける。 目の前に、エメラルドに輝く人影があった。 「・・・・・・・幻」 「いいや、現実だ」 「嘘」 「本当だよ」 唇に、唇が重なった。そのまま、ゆっくり押し倒され、抱きしめられる。 隻眼の、エメラルドの瞳。眼帯に覆われている。衣服は、昔のまま。 「嘘」 「本当」 NEXT |