「ロックオン、大変です」 ぶんと、ティエリアの手からジャボテンダーがうなり、ロックオンの顔面をはたく。 「どうした?」 攻撃を受けながら、ロックオンは機嫌がよさそうだ。 「ジャボテンダーさんが孕みました」 「はい?」 「だから、ジャボテンダーさんに子供ができたのです」 「はい?」 「ですから、ジャボテンダーさんが子供を孕んだのです」 「はい?」 ぶんと、ティエリアの手からジャボテンダーがうなり、ロックオンの顔面を10回殴った。 「この前、ジャボテンダー卵うんだじゃないか。卵生なんだろ?」 「いいえ。ジャボテンダーさんは卵生ですが、体内で子供を孵化させてから生むようなのです。ですから、この前の卵はジャボテンダーさんがミスって孵化しそこねたんです」 「へぇ、そうか」 ロックオンは天井を見つめていた。 また、いつものジャボテンダー遊びかなと思っているのだ。どう対応しようか。 とりあえず、合わせよう。 「そりゃ大変だ!ドクター・モレノに診てもらえ!」 「はい、そうしてきます!!」 ティエリアはジャボテンダーを抱えて、ロックオンを伴ってドクター・モレノのところにいった。 「ドクター・モレノ。ジャボテンダーさんに子供ができました。診察してください」 「はいはい」 ドクター・モレノは聴診器をティエリアの頭にあてる。 「うん、順調だな」 「僕ではなく、ジャボテンダーさんを診て下さい」 診察室のベッドに寝かされたジャボテンダー。いつもとなんのかわりもない、ジャボテンダー。 ドクター・モレノはこそこそと、ロックオンに耳打ちする。 「こら、お前またティエリアに何を吹き込んだ?」 「いや、何も吹き込んでないって!とりあえず、合わせてやってくれ」 「仕方ないな」 ドクター・モレノは聴診器をジャボテンダーの腹部にあてる。 「はい、順調です。明日にはうまれるでしょう」 「明日!大変だ!」 「おおっと、もううまれそうだ」 「もう!?」 ロックオンは顔面を蒼白にしていた。 ドクター・モレノもティエリアがおもしろおかしい生物であると理解しているが、おもしろおかしすぎてからかわれていた。 どうするよ、俺。 そうだ、今度ティエリアにあげようと思っていたミニジャボテンダーだ! ロックオンは思いついて、ダッシュで部屋にとりにいき、こそこそと診察室に戻ると、ベッドの下に隠した。 「いけません!ドクター・モレノ、ジャボテンダーさんが産気づきました!どうにも難産になりそうです!帝王切開をお願いします!」 「はいはい。患者とおりまーす」 ドクター・モレノはジャボテンダーを右脇に抱え、オペ室に入る。ぱっと、オペ室の電灯がつき、手術中となった。 ティエリアははらはらして、落ち着きがなく、とても心配そうだ。 「どうしたもんかねぇ」 ドクター・モレノは手術室の中で、コーヒーを飲んでいた。 一応、患者なのでジャボテンダーは手術台に寝かせている。 「ま、死産ってことにしますか」 包帯を腹に丁寧にまくドクター・モレノ。 手術室への扉が開き、ドクター・モレノが包帯を腹部に巻いたジャボテンダーを右脇に抱えて出てきた。 「母子の容態は!?」 くってかかるティエリアに、ドクター・モレノは静かにこういった。 「子供は、残念ながら死産だった」 「そんな!」 ポロポロポロ。 ティエリアの石榴の瞳から、大粒の涙が溢れて流れ出た。 ドクター・モレノは焦った。 まさか、ティエリアが泣くなんて思ってなかったのだ。いつもみたいに「そうですか、それは残念です」といってすむと思っていたのだ。 「ええと、ティエリア・・・」 「ティエリア!子供が息を吹き返したぞ!」 ロックオンが、診察室のベッドの下に隠していたミニジャボテンダーを持ってくる。 「ああ、本当だ!」 ティエリアはすぐに泣き止んで、笑顔になった。 「良かったですね、ジャボテンダーさん。赤ちゃん、無事ですよ」 にこにこ。 「ようやるな、お前」 こそこそと、ロックオンとドクター・モレノが耳打ちする。 「プレゼントしようと作ってたミニジャボテンダーに救われたぜ」 母子ともに健康。その日のうちに、ジャボテンダー親子は退院した。 ドクター・モレノもティエリアに毒されたのか、ちゃっかりジャボテンダーのカルテ票をつくったり、おもしろおかしいティエリアは、いろんな人をおもしろおかしくさせる。 NEXT |